『服のはなし 着たり,縫ったり,考えたり』
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服のはなし 着たり、縫ったり、考えたり 行司(ぎょうじ)千絵著
[レビュアー] 鶴田静(文筆家)
◆「自分らしく」ふだん着自作
コロナ禍の外出自粛で筆者のお洒落(しゃれ)着は姿を消したが、本書には個性的な服が溢(あふ)れている。
年輩(ねんぱい)の一人の女性が、彩り鮮やかな楽しいデザインの服を着、美しい笑顔で自宅の各所に立っている。服は京都新聞記者である著者が、モデルを務めた母のために作った。
著者は新聞社に就職した初期の、いわばキャリアウーマン型の服装(例えばスカートよりもパンツスタイル)は不適切と知る。仕事に対しても、素直に自分らしさを出してやれば良いと気付かされたからだという。そこで「女らしさ」を装う必要のない服−女性の社会進出に示唆的だ−ふだん着を、自分のミシンで作り始めたのである。
休日の二日間で一着の服を作れる才能は、家系だろう。和裁が仕事の祖母。服や小物の手作り派の母。著者も幼いころ手作りの趣味に興じた。やがて著者のふだん着作りは評判となり、個展は十二回開かれ、自身や友人知人の多数の服が展示された。
本業が記者の、服に関しての取材や記事の観点は広い。服の材料について、著者はエシカル(倫理的)に考える。生地の材料は植物と動物の革や毛皮や毛である。生物の命を糸に加工し布に変えるのだ。現代では化学繊維で開発されたフリースが大流行し、化学繊維製品は廉価で手軽だ。故に「食品ロス」同様大量に売れ残る「服ロス化」やゴミ化が生じ、社会問題となる。
京都工芸繊維大学の木村照夫名誉教授は言う。「もともと服を作り過ぎているのです。ひとりひとりに十分な服だけあれば、リサイクルなんてしなくていい」。著者は「つくるのは楽しいという気持ちだけで、次から次へと服を増やしていいのか」と懸念する。
動物の着ぐるみを着た作家いしいしんじ。風呂敷で作った服を着た瀬戸内寂聴。作家島尾敏雄の死後、人前では常に喪服姿だった妻ミホ。取材などを通じ、人それぞれの服との関わりを紹介している。
本書は、人間に必須である服について自分史的な視点でつづった、日本の、また世界的に俯瞰(ふかん)した社会・文化論だ。服選びへの指針にもなろう。
(岩波書店・1980円)
1970年生まれ。京都新聞記者。独学で洋裁を習得。著書『おうちのふく』など。
◆もう1冊
ブローレンヂ智世著『ワンピースで世界を変える!』(創元社)