「このミス」文庫グランプリ受賞作が一気読みの面白さ

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「このミス」文庫グランプリ受賞作が一気読みの面白さ

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 昨年発表の第19回『このミステリーがすごい!』大賞で文庫グランプリ(従来の「優秀賞」に相当)を受賞した亀野仁『暗黒自治区』が刊行された。これが歴史改変もの&アクション活劇として一気読みの面白さ。

 舞台は隣国「中央」の支配下にある日本。国連暫定統治区となっている東京で、拉致チームの一員、佐野由佳が逮捕される。が、公安民警の雑賀が由佳を護送中、何者かに襲撃されて激しいカーチェイス&銃撃戦に。そこから二人の怒涛の逃避行が始まる。しかも、どうやら雑賀にはある目的があるようで……。

 パラレルワールドの世界が丁寧に構築されていて引き込まれる。アクションシーンも迫力満点、銃器の描写もマニアック。さらに、新体制下の混沌とした街並みの描き方が想像力を駆り立てる。二転三転の展開といい、確かな筆力を感じさせる著者は一九七三年生まれ、米国や日本で活動し、現在は広告映像制作会社の取締役。映像が浮かぶ活劇の描写はその経験も活かされているのだろう。

 逃亡劇を得意とする作家といえば、サイモン・カーニックで、イギリス本国でも大ヒットした話題作が『ノンストップ!』(佐藤耕士訳、文春文庫)だ。週末、子供たちの面倒を見て過ごしていたサラリーマンのもとに、友人から助けを求める電話が。だが電話の向こうで友人は殺されてしまい、今度は理由も分からぬまま、自分が追われる身に。瞬発力も抜群、次から次へと謎が生まれて飽きさせないエンターテインメント。

 マックス・アンナス『ベルリンで追われる男』(北川和代訳、創元推理文庫)は社会派の逃亡劇。NGOの職を失ったために在留資格無効となったガーナ出身の青年が、ある夜、殺人事件を目撃。不法残留が発覚することを恐れて警察に通報できずにいたところ、目撃情報から自分が容疑者となったと知り愕然。身を隠しながら、彼は真犯人を捜す。後半はベルリンの街中を逃げて逃げて逃げまくる。サスペンス小説だが、いまだに根強い人種差別や在留資格の問題を突き付けてくる作品だ。

新潮社 週刊新潮
2021年3月18日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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