『レオノーラの卵』
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無限大の想像力が炸裂 『レオノーラの卵 日高トモキチ小説集』日高トモキチ
[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)
この楽しさと非日常感、この懐(なつ)かしさと切なさ。まるで古き良き遊園地を訪れたかのよう(実際、観覧車なども登場する)。漫画家、イラストレーターとして活躍する日高トモキチの初小説集は、著者の膨大な読書量と知識が遊び心たっぷりに炸裂する、とても刺激的な七篇が収録されている。
表題作「レオノーラの卵」は、レオノーラが生む予定の子供が男か女か賭けをする話。“卵”というのだから人間ではなさそうだが、工場長ややまね、チェロ弾きや時計屋の首といった名称の登場キャラクターたちの言動は人間そのもの。頭の中で立ち上がる映像は読者それぞれで異なるだろう。それは他の作品でも同じ。
かつては巨(おお)ハマグリ漁で栄えた港町の沿岸に漂(ただよ)う謎の砂の船の真相に迫る「旅人と砂の船が寄る波止場」、読書家の少女がねずみに頼まれ、アルバイト裁判官として難題を裁(さば)く「コヒヤマカオルコの判決」、父親の葬儀が盛大なお祭り騒ぎとなっていく「ゲントウキ」など、どれも設定も展開もぶっ飛んでいる。どこか終末世界的な光景も紛(まぎ)れ込んで一抹(いちまつ)の寂しさもあるが、かすかな未来への予感を残して絶望はさせない。宮沢賢治(みやざわけんじ)、ガルシア=マルケスを彷彿(ほうふつ)させる人名が登場したり、突如チェスタトンや坂口安吾(さかぐちあんご)や芥川龍之介(あくたがわりゆうのすけ)、漫☆画太郎(まんがたろう)に言及したり、さらにはピーター・パンの世界観の話にいきなりふ菓子が出てきて「気をつけて。川越(かわごえ)で売ってるやつよ。並のふ菓子とは破壊力が違う」という台詞(せりふ)があったり。もう、どれだけ笑わせ、ワクワクさせるのだろう。この自在っぷり。知的で遊び心たっぷりの人が創作すると、こんなにも大風呂敷が広がるのかと感嘆してしまう。今後も小説を書き続け、また未知なる遊園地に連れていってください。