『生命海流 GALAPAGOS』
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ガラパゴス化しない最先端進化論への旅
[レビュアー] 大竹昭子(作家)
生物学者が少年の頃から温めてきた夢が実現し、チャーター船に寝泊まりしながらダーウィンと同じ航路を通ってガラパゴス諸島を巡った。
とんでもなく贅沢な旅だが、狭い船室、流し方にコツのいる狭くて臭いトイレ、申しわけ程度にしか出ないシャワーと、アウトドアライフに不慣れな者には辛い環境だった。著者は生物学といっても専門は分子生物学で、長年、実験室で顕微鏡を覗いてきたのである。
それでも徐々に船上の生活に順応し、船では近づけない狭い海峡を、決死の覚悟で泳いで渡ったときは、海の生き物と一体になって海流に溶けていくような歓びを覚える。
著者はこれまでの著作で、生命を要素に切り分けて調べても本質に迫れないこと、それは生命とは物質としての実体ではなく絶えず流れ変化している状態を示すものであり、そのありようを「動的平衡」という概念で説明してきた。ガラパゴスの旅はその生命観を自身の体に刻みつける過程だったと言えるだろう。
もうひとつの関心は、若いときから抱いてきたダーウィンの進化論への疑問である。ガラパゴスは競争原理に乗れずに世界から取り残された場所の比喩に使われてきたが、実際は新しい島で、奇跡的にそこに到達できた生物が広いニッチを享受し、生存の選択肢を選んできた。「自然淘汰の圧によってだけ進化が説明される」状況とはかなり異なっていたのであり、それが生物に余裕ある生き方を可能にしてきたと考える。
鳥たちがカメラのレンズフードの中でおしくらまんじゅうをしたり、グンカンドリが船を先導するように舳先の上を飛んでいったりという行為を目にした著者は、「『目的論』的に生物の振る舞いを説明するのがだんだんいやになってきた」。
余裕のある生命が見せる自由な行動に動物と人間の差は存在しないのだろう。差があると思うのはむしろ人間の傲慢とは言えないか。