<東北の本棚>静謐な空気まとう17音
[レビュアー] 河北新報
わずか17音が、大災厄のさまざまな場面を映し出す。見えない思いが、声が、読み手の中でよみがえるだろう。
東日本大震災から10年。仙台の俳句結社「きたごち俳句会」(柏原眠雨主宰)が結社誌「きたごち」に掲載した震災詠2444句を収録した。
同誌は1989年創刊、会員は約200人。「きたごち」とは北東から吹く風の意味で会の名はやませを由来とする。「厳しい自然環境と向き合いながらも自然と共存する」という理念が込められる。
災禍を主題としながら静謐(せいひつ)な空気をまとうのは、同会の写生を重んじた、伝統に根ざした端正で素直な表現によるのだろう。本書の序文で柏原さんは「俳句という小さな器だが、それぞれの訴える力は端的で強く大きい」と記す。
<津波あとに春泥つまる園児バス><松籟も津波に消えし春の暮><炎天に潮錆ふやし被災船>
俳句は人間の想像する力や記憶の積み重ねによって成り立つ。震災では多くの俳人が季語に助けられた。<万緑や汚染処理場拒否の旗><鎮魂の棚に石榴の実の一つ><薫風や坂下りて来て瓦礫浜>
句は掲載号順に並ぶ。時と共に変わっていくものと、変わらないものがあることが分かる。本当の悲しみは言葉の外にある。(建)
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きたごち俳句会022(263)2774=2200円。