彼らと触れあう歓びと哀しみ通じあえているという至福感

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動物たちの家

『動物たちの家』

著者
奥山淳志 [著]
出版社
みすず書房
ジャンル
芸術・生活/写真・工芸
ISBN
9784622090052
発売日
2021/08/04
価格
3,080円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

彼らと触れあう歓びと哀しみ通じあえているという至福感

[レビュアー] 大竹昭子(作家)

 子どもの頃に飼った動物の思い出が綴られる。犬、手乗りインコ、鳩、子ネズミ、ハムスター……。

 いわゆるペットの話とは違うし、生態を観察するのでもない。動物たちを最初に出会う究極の「他者」とみなし、彼らと触れあう歓びと哀しみを振り返る。感情の深い部分が刺激される得難い読書だ。

 人間同士なら言葉で通じあえる時がやがてくる。誤解が生じたとしても、それを乗り越える術がある。だが、生き物との関係にそのような橋はない。向こう岸とこちら側に留まりつづける運命。それでも、通じあえているという至福感はたしかに感じられるのだ。

 鳩のヒナを拾ってポッポと名付けて育てる。子どもの頃の著者は実にうまくそれをやってのける。鳩はすくすくと成長し、期待した鳩レースの訓練には応えなくとも、自由に小屋を出入りして飛びまわり、ついには帰ってこなくなる。

「去ってしまうのは構わない。でも、ポッポの決心が、鳩として生きていくためのものであって欲しい」と願った少年は、ある日突然、原稿用紙にむかって一編の物語を書き出す。この行為の切実さに人間たる所以があるだろう。このようにしか彼らとのあいだに架橋はできないのだ。

 捨て犬のラナの話も味わい深い。拾われた身を悟っているかのように慎ましく暮らすも、失踪を繰り返す。少年は元の飼い主が忘れられずに追い求めているのだという想いを捨てられない。「人間から受け取ったものを、生涯を通して守り続ける」のが犬であり、彼はそれを「犬の哀しみ」と呼ぶ。

 動物たちは共に過ごした時間の中で彼の胸の内に確かな「場所」を育んでくれた。それを辿る緻密な描写に誘われて、読者もまた息を止めるようにして自分の「場所」を探り当てる。写真家でもある著者の手になる動物たちの写真が、その時に湧き上がる感情を温かに包んでくれる。

新潮社 週刊新潮
2021年11月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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