小泉今日子×高崎卓馬・対談 私と彼らのあの頃

対談・鼎談

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黄色いマンション 黒い猫

『黄色いマンション 黒い猫』

著者
小泉 今日子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784101034218
発売日
2021/11/27
価格
572円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

小泉今日子×高崎卓馬・対談 私と彼らのあの頃

[文] 新潮社

今わかるファンの思いと彼らへの感謝

高崎 僕の小説『オートリバース』は、二〇二〇年にラジオドラマとして放送されたんです。その時、多くの十代の子たちが聴いてくれたことにとても驚きました。僕のような五十代の人間が書いたものが、まだちゃんとラジオを聴いたことがないような若い世代に届くということがすごくうれしかった。今回、文庫になった小泉さんのエッセイ集も、今の十代の子たちが読んだらきっと面白いと感じるでしょうね。

小泉 そうだといいね。私も最近、アイドル時代の私を知らない世代の子たちが、YouTubeとかで私が唄っている昔の映像を観てくれて、SNSを通じて感想を送ってくれることがすごくうれしい。そうしてファンの子と簡単に繋がれる時代になったんだよね。

高崎 八〇年代のアイドル全盛期では考えられないことですよね(笑)。

小泉 ほんと! 実は私も今、人生で初めてファンクラブなるものに入会して、オタク活動をしてるんですよ。

高崎 あ! BTSですね。

小泉 そうです(笑)。アイドルを追いかけることで、自分自身にフィードバックすることがたくさんあるの。あ、そうか! あの時、彼らはこういう気持ちだったのか! って、ファンの子たちが私に何を求めていたのかが、今更ながらわかるようになった。それを古参のファンの方に、「やっとわかったのか!」と言われてる(笑)。

高崎 BTSの影響力ってすごい(笑)。

小泉 二〇二二年で、私はデビュー四十周年なんです。だから全国ツアーや映像集の発売などいろいろなことを計画しているの。そのためにレコード会社に残っているプロモーションビデオやコンサートの記録を全部観せてもらったのだけれど、大阪のフェスティバルホールでのコンサートを収録したものを観たら、外で開場を待つファンの子たちにインタビューしている映像

があったの。「キョンキョンのどこが好き?」「まあ、他のアイドルとはちゃうところやな」「それはどんなところ?」「自分の考え、持ってるからな」って、ヤンキーみたいな男の子が答えているのを観て、思わず泣きそうになっちゃった。

高崎 めちゃくちゃいい話ですね。

小泉 ね! 十代の自分がアイドルとして必死にがんばっている姿にも、なんだか泣けてきてしまって。こんな時代からやってたのかよ~って(笑)。

高崎 こんな時代って(笑)。

小泉 そうだよ! デビューした八〇年代初め頃なんて、まだアナログレコードで新曲を出していたんだから。

高崎 『オートリバース』の主人公二人は、小泉さんの曲をカセットテープで聴いていますしね。四十年を振り返ると、小泉さんは歌手として俳優として、本当にいろいろな時代を見ていらした方ですよね。

小泉 自分でもそう思います(笑)。

高崎 八〇年代はアイドルとして駆け抜けて、九〇年代前後からは川勝正幸さんと出会い、藤原ヒロシさんやスチャダラパーといったサブカル界の人たちとも交流を持つようになる。かと思うと、久世光彦さんや相米慎二さんといった、映画やドラマ、演劇界の方々、そして、『黄色いマンション 黒い猫』の装丁を手掛けられた和田誠さんや糸井重里さんなど、デザイン、美術、広告界の方たちとも親交が深い。

小泉 いろいろなジャンルの方と仕事をして、歌手もやって俳優もやって、舞台のプロデュースまでするなんて人、私くらいかもね(笑)。

高崎 そして、文章も書ける。

小泉 きっと、ある意味ノンポリだからできたんじゃないかな。アルバムのプロデュースにしても、平気で誰かに任せられるから、みんな私に新しいことをさせたり、私で遊ぶことを楽しんでくれていたんだと思う。そして何より、ファンの子たちがそういう私を面白がってついてきてくれた。二〇二二年は、そんな人たちへ御礼をするという気持ちで、四十周年という記念の一年を過ごしたいと思います。

新潮社 波
2022年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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