心がほぐれる甘さと暖かさと優しさ 店員は無口な熊とお喋りな鮭!

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泣きたい夜の甘味処

『泣きたい夜の甘味処』

著者
中山 有香里 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784046807540
発売日
2022/01/28
価格
1,210円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

心がほぐれる甘さと暖かさと優しさ 店員は無口な熊とお喋りな鮭!

[レビュアー] 夢眠ねむ(書店店主/元でんぱ組.incメンバー)

 疲れていませんか。コロナ禍は終わらず、会いたい人にも会えず、仕事も上手くいかなくて、ずっとなんとなく不安……そんな人も多いのではないだろうか。私も近頃、元気にしているつもりでもスッキリせず、もやもやと悩む日がある。自分の力だけじゃどうにもならなくて疲れて弱って、涙すら出なくなってしまっているといよいよやばい。そんなとき、誰かの優しい言葉より、食べ物が感情のスイッチになることがある。プレゼンが上手くいかなくて帰り道にしょんぼり食べた肉まん。ストレスで胃がやられているときに姉が作ってくれたうどん。家から出られないときに友達が玄関先に置いてくれたショートケーキ……言葉より、わざとらしくない優しさが乗っかった食べ物が心にズンと響く。

 この漫画は、とある町の夜しか営業していない甘味処が舞台である。メニューは1品と温かいお茶のみで、なんと店員さんは無口な熊とお喋りな鮭! 何かしら問題を抱えて弱っている主人公たちがお店から漂う甘い香りに誘われて、ふらりと立ち寄るところから物語が始まる。一口食べて、みんな目に涙を溜める。甘さと暖かさと優しさで心がほぐれていく様子に、こちらもつられて泣いてしまうので、人がいるところで読むのはお勧めしない。

 作者は看護師をしながらイラストレーターをされている(Twitterで連載中の「疲れた人に夜食届ける仕事」も最高! 疲れた人に響く作品が天下一品なのだ)。最近はネット上で簡単に無料で漫画を読ませてくれるけれど、やっぱりお気に入りの作家さんの作品が書籍になるのは嬉しい。しかも、描き下ろしで各話のサブキャラ目線のアナザーストーリー(これがまた泣ける)と、お話に出てくるお菓子のレシピ付き。材料の粉物はだいたいホットケーキミックスに変更できる嬉しい仕様である。

 温かいお茶と甘いものを用意して、ゆっくり泣ける日があっていい。

新潮社 週刊新潮
2022年3月10日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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