『ゴリオ爺さん』
- 著者
- バルザック,H. de [著]/平岡 篤頼 [訳]
- 出版社
- 新潮社
- ジャンル
- 文学/外国文学小説
- ISBN
- 9784102005057
- 発売日
- 2005/01/01
- 価格
- 825円(税込)
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ついつい娘を甘やかしてしまう父親は必読の傑作
[レビュアー] 野崎歓(仏文学者・東京大学教授)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介
今回のテーマは「父」です
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シェイクスピアの戯曲『リア王』の向こうを張って、バルザックが小説により描き上げた父親をめぐる一大悲劇。それが『ゴリオ爺さん』だ。
リア王に比べて“親バカ度”がはるかに増している点、そしてリア王には一人だけ誠実なコーディリアがいたのに、それに相当する娘がいない点が大きな違い。
商売で蓄財したゴリオだが、高望みの娘二人は巨額の持参金つきで貴族に嫁入りを果たす。そうなるともう商人の父を恥じて知らんぷり。金に困ったときだけやってきては脛をかじる。父はカルチエ・ラタンの外れのしがない賄い下宿で独り暮らし。その境遇に同情する隣室の学生ラスティニャックだけが彼の味方だ。
バルザック作品の迫力は徹底したコントラストの追求によりもたらされる。華麗な社交界とぼろ下宿の対比が、フランス社会の地殻変動をあぶり出す。父を踏みつけにするようでは国も滅びると、バルザックは本気で警鐘を鳴らす。だが欲望満開の娘たちの暴走は止められない。
原題ペール・ゴリオは、直訳すれば「ゴリオ父」。ペールはまた、親しみを込めた呼称としても用いられる。そこで「爺さん」が定訳となってしまったが、「ゴリオとうさん」「ゴリオおとっつぁん」でもよかった。「父性のキリスト」とバルザックは言うのだが、娘たちをひたすら猫かわいがりして甘やかし続けるその姿は、むしろ谷崎的「痴人」に近い。とりわけ娘をもつ父親は今日なお必読の傑作だ。