<東北の本棚>子亡くす悲しみ 尊重を

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東日本大震災 遺族たちの終わらぬ旅 亡きわが子よ 悲傷もまた愛

『東日本大震災 遺族たちの終わらぬ旅 亡きわが子よ 悲傷もまた愛』

著者
寺島英弥 [著]
出版社
荒蝦夷
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784904863763
発売日
2022/03/11
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>子亡くす悲しみ 尊重を

[レビュアー] 河北新報

 わが子を突然の災厄で失った悲しみは、どんなに年月を積み重ねても、消えたり薄らいだりはしない。喪失の痛みとは、相手に対する愛情と表裏一体だからだ。であればこそ、気持ちを切り替え、前を向くことを他人が安易に促すべきではない。悲しみは悲しみのまま尊重されなければいけない。東日本大震災後、九つの家族の11年間が示す、切実なメッセージである。

 津波で小学6年の三男を亡くした石巻市の女性は、狂おしいほどの哀惜と後悔にとらわれ、生死のあわいを漂っていた。この世のよすがとなったのは、寺の副住職がかけた言葉だった。「また逢(あ)えるから」。以来、女性は最期の先で待つ息子との再会を信じ、彼に恥じない生き方を誓いながら、日々を懸命につないできた。

 大切な子どもに先立たれるつらさに加え、親たちは周囲の「地雷のような」何げない声にも傷ついていた。「いつまでも泣いていると息子さんが心配する」「元気そうに見えて安心した」。内面の痛苦を理解されず、孤立は深まるばかり。同じ境遇同士が集う場を作ることで、初めて安心して本音を打ち明け、涙を流し合えた。「戦友」の存在は明日を生きる支えだった。

 著者は元河北新報記者のローカルジャーナリスト。震災の発生当初から被災地を取材し、出会った遺族らと長い時間を共にしながら関係を築いてきた。銀行員の長男を亡くし、命を守る企業防災の徹底を訴える両親。月命日に遺体の発見場所である仙台空港周辺の「巡礼」を続ける殉職警察官の母。それぞれの道行きに付き従い、心の奥底から絞り出される言葉を受け止め、記録したのが本書だ。

 復興の名の下に、土地の形や施設はどんどん新しく変わってゆく。でも目に見える風景の変化のスピードと、遺族の心のありようとは決して一致しない。胸に深く刻みたい。(ぐ)
   ◇
 荒蝦夷022(298)8455=1980円。

河北新報
2022年5月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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