『ばらまき 河井夫妻大規模買収事件 全記録』
- 著者
- 中国新聞「決別金権政治」取材班 [著]
- 出版社
- 集英社
- ジャンル
- 文学/日本文学、評論、随筆、その他
- ISBN
- 9784087817133
- 発売日
- 2021/12/15
- 価格
- 1,760円(税込)
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政権をも揺るがす地方紙の逆転スクープ
[レビュアー] 西岡研介(ノンフィクション・ライター)
正直、「政治とカネ」の問題にはウンザリしていた。
だから、この事件―2019年の参院選に、広島選挙区から出馬した河井案里・元議員を当選させるため、夫の克行・元法相が、地元の首長や議員ら100人に総額約3000万円をばらまいた買収事件―がマスコミを賑わしていた時も、だ。買収額の大きさと被買収者の多さ、そして、あまりにベタな金銭授受の手法に呆れつつも、それ以上の興味も関心も湧かなかった。
だが、同じようにこの問題に辟易としつつも、その追及を諦めない、いや、諦めるわけにはいかない人たちがいた。事件の舞台となった広島で働く地元紙「中国新聞」の記者である。
もっとも、取材は決して幸先の良いものではなかった。参院選の3カ月後、週刊誌に、河井夫妻による「ウグイス嬢の違法買収疑惑」を報じられる。つまりは雑誌に“抜かれた”わけだ。
しかし“抜かれたら、抜き返せ”が記者の鉄則。中国新聞の記者たちは後追い取材をするうちに、事件の端緒たる資金提供についての情報を掴み、ここから同紙の反転攻勢が始まる。
広島県議64人全員を直撃した結果、4人が河井夫妻からの金銭授受を認め、さらには検察が本格捜査に着手したことも掴み、逆転のスクープを放つのだ。
そして同紙は総力を挙げ、広島県と同県23市町の全首長と全地方議員500人超に河井夫妻からの金銭授受を問うローラー取材をかけ、キャンペーン報道「決別 金権政治」に乗り出す。
さらに「選挙買収は果たして広島だけの問題なのか」との疑問を抱いた記者たちは、千葉、群馬へと飛び、それが疑われる議員や首長を直撃する。
そこから浮かび上がってきたものは、今なお買収が各地で蔓延しているという事実と、自民党の根深い金権体質だった。
そして取材班は徐々に、河井夫妻事件の核心に迫っていく。
今回の事件の最大の焦点は、19年の参院選で、保守分裂になることも辞さず、案里候補をゴリ押しした当時の安倍政権の関与と、巨額買収の原資だった。
このうち原資については、事件発覚当初より、自民党本部から案里陣営に拠出された政党交付金を含む「1億5000万円」と噂され、そう報じられていた。
だが、取材班は、案里陣営の膨大な内部資料と関係者の証言などから、それとは全く違う結論を導き出し、これを裏付ける証拠を今なお、追い続けている。
広島から政権中枢を揺さぶる、地元紙の新たなスクープを予感させる書である。