『先住民のメキシコ』
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<東北の本棚>今と地続き収奪の歴史
[レビュアー] 河北新報
冒頭、著者は不法移民の流入防止策としてメキシコとの国境に壁建設を訴えた米国のトランプ前大統領の言動を取り上げている。メキシコ人と触れ合った経験から、国境を越えて働こうとする彼らの貧困に思いをはせる。
本書によると、1521年のスペイン人によるアステカ帝国征服の前、メキシコ先住民の人口は約2520万だったが、100年間で約75万に激減した。背景には、スペイン人がもたらした疫病だけでなく、苛烈な搾取があった。著者は先住民の歩みをひもとき、彼らの子孫の今と、征服者による略取の歴史が地続きにあることを示そうとする。
5章で構成され、スペイン人による植民地統治の実態や裁判制度、訴訟記録などを説明する。征服者側が中心となって作ってきた歴史記録に疑問を抱き、無名の先住民らに光を当てようとする試みの一つが、第4章「『インディオ』たちの訴訟記録」だ。先住民らがスペイン人に異議申し立てした内容は、土地の収奪、重労働の強制、過剰な農産物や産品の引き渡し要求、村のかんがい施設の水利権の侵害-など多岐にわたる。そして、収賄など行政官の不正も告発されている。
ただ、メキシコ古文書館に残されている記録は、先住民の訴訟や請願に重心を置いた裁判制度「インディオ関係法廷」が設立された1594年以降のものしかないという。既に、先住民の人口は激減していた時期で、それ以前の多くの非人道的な行為が、歴史の闇に消えているという。
著者は1947年花巻市生まれ。写真家。メキシコの教会美術や歴史に関心を持ち、「メキシコ歴史紀行-コンキスタ・征服の十字架」「『銀街道』紀行-メキシコ植民地散歩」などの著作がある。(安)
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明石書店03(5818)1171=3080円。