『接続する文芸学』
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<東北の本棚>共通項挙げ 作家性分析
[レビュアー] 河北新報
小説家の村上春樹さんや小川洋子さんらを対象とした評論集。それぞれの作品群を貫く共通項を挙げ、作家性を読み解く新たな視点を提示する。
村上作品のキーワードとして示すのが「共鳴のパラドックス」。「ここは私のいるべき場所じゃない」と時代や社会、地域への共感を失っている相手に対し、「ここは僕のための場所でもない」と共感する逆説を指す。著者は「共感を封鎖された者同士における共感の可能性にかける」と村上文学の核心を突く。
一方、「共鳴のパラドックス」の限界もあるという。「僕のための場所でもない」と共感する心の動きは、あくまで「僕」の中で起こっただけ。相手も共有するかどうか分からない。著者は「<自分には共鳴が欠けている、あなたもだろう?>というのは、えてして一種の押しつけとなり、時には説教がましい思想となる」と指摘する。
小川さんの小説に大きな影響を与えたのが、ナチス・ドイツ占領下のアムステルダムの隠れ家でユダヤ人少女が書いた「アンネの日記」。著者は、同作を思い起こさせる小川作品の特徴として、監禁状態にある空間や狂気的技術者の存在、大人になることができない子どもなどを挙げ「アンネ・コード」と名付けた。
小川さんは、実際のホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)を描いた小説を中心に執筆しているわけではない。アンネ・コードを通じて比喩として表現しているだけだが、「アンネの日記」とは切っても切れない関係だ。「ホロコーストなきホロコースト文学」。著者はそう位置付ける。
著者は釜石市生まれの北海道大大学院文学研究院教授。本書ではアニメ映画監督の宮崎駿さんの作品も論じている。(柏)
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七月社042(455)1385=3850円。