【トレンドを読む】宗教2世とヤングケアラー

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「ヤングケアラー」とは誰か 家族を”気づかう”子どもたちの孤立

『「ヤングケアラー」とは誰か 家族を”気づかう”子どもたちの孤立』

著者
村上靖彦 [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784022631213
発売日
2022/08/12
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【トレンドを読む】宗教2世とヤングケアラー

[レビュアー] 寺田理恵(産経新聞社)

安倍晋三元首相の銃撃事件をきっかけに宗教2世の問題が注目を集めているが、親に振り回される子供の視点から書かれた小説は少なくない。例えば本屋大賞作家、凪良(なぎら)ゆうの新刊『汝、星のごとく』がそうだ。

高校生の少女は、父親の浮気が原因で母子家庭で育つ。心を病んだ母親のため進学をやめて地元で就職するが、宗教にはまった母親に預金を使い込まれ、借金まで負う。やがて高校時代の教師から、きみはヤングケアラーだと告げられる。

「十代から自分の人生を捨てて、必死でお母さんを支えて、そうして今の年齢になった」

親子関係は文学の世界でも普遍的命題だ。とはいえ、こうした作品が読者の共感を得るのは、宗教2世に限らず親を支える子供が身近な存在になっているからではないだろうか。

   ◇

親のケアを担う子供に着目した社会福祉関係の本が増えている。8月に刊行された『「ヤングケアラー」とは誰か』(村上靖彦著、朝日選書・1870円)は、親を気遣う子供の困難な状況を、大人になった当事者から聞き取った本。序章で母親の新興宗教依存を心配して「修行」や「奉仕」に付き添う女子学生のエピソードが取り上げられる。学生はしばらくして亡くなり、著者は10年以上経って彼女がヤングケアラーであることに気づいたと明かす。

著者はまた、報道では身体的な病や障害のある家族の介護・家事代行に焦点が当てられることが多く現実とずれがあると指摘し、家事労働や介護だけがケアではないと強調する。親を気遣うこともケアに含まれる。親子は互いにケアするものだが、ヤングケアラーは困難から逃れられない状況に陥っている。

親の精神疾患などのため睡眠・食事不足、不登校になる事例は「ネグレクト(育児放棄)」という見方がされていたが、ヤングケアラーという視点で見ると、子供が親を支えている様子が分かってきたという。

   ◇

『子ども介護者』(濱島淑惠著、角川新書・990円)も見守りや愚痴を聞くといったケアにも着目する必要があるとする。長時間にわたり、負担も大きいが、家族がするしかない。また、ヤングケアラーの多くは困難を抱える親を批判されることを恐れているそうだ。

普通の「手伝い」とケアとの違いは何か。本書では子供が負う責任の重さにあるとし、「昔からよくある」と放置できない理由として社会的要因を指摘している。ケアを担う子供が生じる背景に、精神疾患のある人の増加やひとり親世帯の増加がある。ヤングケアラーがひとり親世帯に多いのは、親がケアを要する状態になると一気に生活が回らなくなるからだとみる。

親を気遣う子供の側に立った本が増える一方、子供に悪影響を及ぼす「毒親」という見方で書かれた本の刊行も続いている。そうした中、精神科医が毒親からの卒業を促す『「毒親」って言うな!』(斎藤学著、扶桑社・1540円)では、毒親像を最も多い過干渉・統制型のほかネグレクト、性的虐待や暴力、精神障害に分け、精神障害のある親については親子とも支援と保護が必要な例を挙げる。親にしがみつく子供もおり問題は複雑だという。

家族のケアを担う子供の事情を理解しなければ、適切な支援を届けるのは難しそうだ。宗教2世の問題も、政治家が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係を断つだけでは解決しないだろう。

寺田理恵

産経新聞
2022年9月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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