『水車小屋のネネ』
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年の離れた姉妹の「綱渡り」を思いがけない世間の優しさが見守る
[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)
十歳年の離れた理佐と律の姉妹、そして彼女たちにかかわる人たちに流れる四十年という時間を、十年刻みでゆったりと描く。
両親が離婚し母親と三人で暮らしていた理佐と律だが、母親の恋人が家に入り込み、自分の思い通りにならない律を家から閉め出したりするようになる。短大の入学金を母親が勝手に恋人の事業資金に流用して進学できなくなった理佐は、律を連れて家を出て、自活の道を探る。
十八歳の理佐が、律を育てていけるのか。理佐自身が「綱渡り」と感じるように、先行きは見えない。当てにならない肉親と縁を切り、世間の荒波に放り出された彼女たちを待ち受けていたのは、ふつうの人の、思いがけない優しさだった。
理佐と律の距離感がいい。十歳違う姉妹は、きょうだい喧嘩をするには年が離れすぎているし、疑似親子になるには近すぎる。本好きで頭のいい律の個性を理佐は尊重して自分のやりかたを押しつけない。律は律で、理佐が自分にしてくれたことの意味を、成長するにしたがってゆっくり理解していく。
そして、なんといってもネネの存在感だ。ネネとは、理佐が見つけた仕事先である隣県の山間のそば屋で飼われているヨウムで、ズバ抜けて賢いその鳥は、水車でそば粉をひく臼が空にならないよう見張りをしていた。理佐の仕事は、ホールの担当と、この鳥の世話をするといういっぷう変わったものだった。
ヨウムは長寿で五十年近く生きるそう。寄る辺のない二人のそばにいつもネネはいて、ネネを愛する人々が二人にも手を差し伸べてくれた。
姉妹のいる場所は、バブルやバブル崩壊といった世の喧騒から離れ、まるでおとぎ話のようだが、二人は堅実に自分の暮らしを組み立てていく。無暗に人に頼らないが、信頼できる人の厚意は受け取り、次の人へ手渡す。その手渡しかたがさりげなく、心があたたかくなる。