7回瞬きする間だけ話を聞いてください 「猫」が亡くなった人の想いを叶える切なくも温かいファンタジー

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

猫の目を借りたい

『猫の目を借りたい』

著者
槇あおい [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575526417
発売日
2023/02/15
価格
770円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

猫が7回瞬きをする間だけ、死者と会話ができる──この世に未練のある霊が、猫の目に現れ、遺された人にメッセージを伝えます 『猫の目を借りたい』槇あおい

[レビュアー] 細谷正充(文芸評論家)

 猫が7回瞬きをする間だけ、死者と会話ができる──そんな特殊能力のある猫と、この世に未練のある霊たち、人生につまずいた30歳・島村千鶴による、悲しいけど温かい、人の絆を改めて考えさせてくれる『猫の目を借りたい』。書評家・細谷正充さんのレビューで本作の読みどころをご紹介します。

■会えなくなったあの人にもう一度会いたい。その願い、この目が叶えます。

 借りたいのは“手”ではなく“目”なのか。でも、それってどういうこと。強い興味に惹かれて、槇あおいの『猫の目を借りたい』を読み始めた。

 理不尽なバッシングを受けてイラストレーターを辞め、引きこもるように暮らしている島村千鶴。しかし家族のように思っている叔父の桔平が入院したことで、人生が変わる。飼い猫のユキの面倒を見るため、叔父の家に引っ越したのだ。

 ところがユキには不思議な能力「猫語り」があった。白猫でオッドアイのユキは、成仏できない霊を瞳の中に宿らせ、7回瞬きする間だけ、この世の人と対面させることができる。代価は、霊が話す「人生で一番幸せな思い出」だ(ユキは“お布施”といっている)。なにも知らなかった千鶴だが、いきなり霊が現れ、訳が分からないままに「猫語り」の仲介役を務めることになるのだった。

 本書には「老弁護士」「ぼくの家族」「新盆」の3作が収録されている。冒頭の「老弁護士」は、仕事に出かけて倒れ、そのまま死んだ弁護士が、家を出るときに話しかけた妻を邪険に扱ったことを後悔。何を話そうとしたのか聞こうとする。お布施である、過去の家族旅行の思い出が、仕事人間だが家族のことを大切に思っていた、弁護士のキャラクターを鮮やかに表現。だからユキの目を通じての、弁護士と妻の対話が、切なく温かいのだ。

 続く「ぼくの家族」は、若くして殉職した消防士が、自分と妹を育ててくれた祖父の憂いを晴らそうとする。ラストの「新盆」は、突然の死を迎えた中年男が、母親のように感じていた大家への不義理を謝る。

 血の繋がりがない関係もあるが、3人の霊の心残りは、すべて家族のことといっていい。その心残りが「猫語り」によって、優しく果たされる。また、霊の話を聞いて千鶴の描く絵も、物語に温かさを加えている。どれも、心がポカポカしてくるストーリーなのだ。

 さらに現実に打ちのめされていた千鶴が、霊たちのために奔走しながら、しだいに立ち直っていく。ここも本書の読みどころだろう。叔父の桔平や、千鶴が最初は苦手にしていた隣人の高井戸重雄など、脇役もいい味を出している。もちろんユキも魅力的。猫、ファンタジー、胸に沁みる話。どれかひとつでも好きならば、迷わず本書を手に取ってほしいのである。

COLORFUL
2023年2月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク