『ライク・ア・ローリングカセット』
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いまだ色褪せないカセットの魅力 巻き戻しボタンをキュキュッと押せば
[レビュアー] 都築響一(編集者)
アナログレコードやカセットテープがいまどきの若者たちのあいだで流行っていることを、ご存じのオールドボーイもいらっしゃるだろう。本書はネット配信どころかCDすらもなかった時代に、カセットテープとずっと一緒に成長してきた青春の思い出を、大事に取ってあるカセットと一緒に披露してもらうインタビュー集。もともと2011年から漫画雑誌ビッグコミックスペリオール誌に連載されてきたものに、単行本化に当たって3人を加えた全62章の音楽と自分の物語。参加メンバーも音楽関係者だけに留まらない。なにしろひとりめに登場するのがジャズやソウルミュージックの思い出を語る“鉄人”衣笠選手なのだから。
カラオケ好きなひとには常識だろうが、演歌の世界ではカセットで新譜が出て、カセットで練習することが珍しくない。「ここんところが難しい」なんてときに、ラジカセの巻き戻しボタンを押せばキュキュッという音とともに望む場所まですぐにリワインドできる。どんな最新鋭のデジタル機器よりも、カセットのほうがインターフェース(使い勝手)の面では優秀だ。
いまだ色褪せないカセットの魅力を「テープが回っているところが見えるから」と語るひとがいた。レコードもカセットも、真の魅力は音質ではなく、目の前で休まず回り続ける“がんばってくれてる感”なのかもしれない。手入れすれば、それだけ雑音のないきれいな音で応えてくれるし。手書きでつくったカセットの背のタイトルや、細かい字の曲目リストに込められたエネルギーもそう(一曲ずつ時間を計算して、テープの長さぴったりに曲を配置するのに苦労しましたよね!)。
スマホで何万曲でも聴けてしまう現在よりも、音楽と自分の関係がはるかに濃密だった時代があったことを、断捨離できなかったカセットの山が思い出させてくれた。