『戦争に行った父から、愛する息子たちへ』ティム・オブライエン著(作品社)

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戦争に行った父から、愛する息子たちへ

『戦争に行った父から、愛する息子たちへ』

著者
ティム・オブライエン [著]/上岡伸雄 [訳]/野村幸輝 [訳]
出版社
作品社
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784861829765
発売日
2023/05/02
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『戦争に行った父から、愛する息子たちへ』ティム・オブライエン著(作品社)

[レビュアー] 辛島デイヴィッド(作家・翻訳家・早稲田大教授)

 広く教材としても用いられている傑作小説『本当の戦争の話をしよう』(邦訳は村上春樹)等で、ベトナム戦争とその後を描いてきた著者は、しばしば「ベトナム戦争作家」と評される。が、「自分に起きた最悪の事件」と関連づけて記憶されることについては、複雑な思いもあるという。

 オブライエンは自分に厳しい。徴兵令に屈した自分にも厳しいし、小説家としての自分の文章にもとても厳しい。なので、もともと寡作だが、2002年以降は、15年以上も新刊を発表していなかった。

 その間、50代後半で、2児の父になり、未来の息子たちのためにと、コツコツ短い文章を書き溜(た)めていた。それらの文章が、家族の支えもあり、徐々に本という形を取り始め、19年についに刊行された。

 本書は、2人の優れた米文学者(上岡伸雄、野村幸輝)によるその抄訳だ。家族の思い出、尊敬するヘミングウェイの作品分析、自らの戦争体験。著者が息子たち、そして後世に伝えたい思いや体験がギッシリ詰まっている。いつか自分の息子たちと一緒に読んでみたいと思う力作だ。

読売新聞
2023年6月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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