<書評>『過去を売る男』ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ 著

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過去を売る男

『過去を売る男』

著者
ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ [著]/木下 眞穂 [訳]
出版社
白水社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784560090824
発売日
2023/04/26
価格
2,750円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『過去を売る男』ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ 著

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

◆記憶は虚実と自他の境越え

 長年にわたる内戦が終わり、新興富裕層が生まれたアンゴラ。そんな彼らに<良い過去、高名な先祖、そして証書>という偽りの過去を作ってやる仕事をしている男フェリックスを主人公にした小説だ。

 ある日、身元不詳の外国人から名前をはじめすべてを書き換えてほしいと依頼されたフェリックスは、彼にジョゼ・ブッフマンという新しい人生を用意する。作られた過去に魅了されたブッフマンは、やがて存在するはずのない両親の足跡をたどり、偽りの過去こそが真実だと主張しはじめ…。

 フェリックスの家に棲(す)みつき、その生活を観察し、夢の中では語り合いもする、前世では小説家だったというヤモリを語り手にした本作は、<われわれについての他人の記憶を取り入れて、どこまでも広がっていく>過去、虚実や自他の境を曖昧にしていく記憶、内戦という大きな記憶と個人の小さな記憶の相克を、詩のように美しい散文で描いて見事だ。記憶のメカニズムについて書かれた小説は多いけれど、大きな成果というべき一作。

 (木下眞穂訳 白水社 2750円)

 アンゴラ出身。ジャーナリストを経て作家。

◆もう一冊

『忘却についての一般論』ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ著、木下眞穂訳(白水社)

中日新聞 東京新聞
2023年6月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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