『過去を売る男』ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ著(白水社)

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過去を売る男

『過去を売る男』

著者
ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ [著]/木下 眞穂 [訳]
出版社
白水社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784560090824
発売日
2023/04/26
価格
2,750円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『過去を売る男』ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ著(白水社)

[レビュアー] 辛島デイヴィッド(作家・翻訳家・早稲田大教授)

 舞台は内戦終結直後のアンゴラの首都ルアンダ。新たに富や地位を築いた者たちが求めているのは「良い過去、高名な先祖、そして証書」だ。

 主人公のフェリックス・ヴェントゥーラは、彼らのために偽の家系図などを作り、「ぴかぴかの新品の過去」を売る隙間ビジネスを営む。顧客は元スパイから大臣までも含む。

 評判を聞きつけ、主人公の元を訪れた戦場カメラマンが、自分のために用意された新たな過去にのめり込んで行くと、虚構と現実が交差し、物語は予期せぬ方向へと展開していく――。

 本書の語り手は、フェリックスの家で生まれ、15年も棲(す)みついている1匹のヤモリ。前世は作家で、家を訪問してくるさまざまな人物の話を軽妙に語る。報われない恋の「専門家」だった人間時代の(実在するアルゼンチンの大作家のものと重なる)挿話も、顧客の経歴を「創作」する主人公の物語と見事に呼応する。

 本作は、個人と集合体の記憶の危うさと儚(はかな)さをユーモアも交えながら巧みに描く。原作の刊行は20年ほど前だが、今ぜひ読みたい1冊だ。木下真穂訳。

読売新聞
2023年7月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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