一途に思い続けた娘は大富豪の息子と結婚…村上春樹が翻訳した「華麗なるギャッツビー」原作

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グレート・ギャツビー

『グレート・ギャツビー』

著者
スコット・フィッツジェラルド [著]/村上 春樹 [訳]
出版社
中央公論新社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784124035049
発売日
2006/11/10
価格
902円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

数々の名優たちが主役に挑戦 複数の翻訳本の読み比べもよし

[レビュアー] 吉川美代子(アナウンサー・京都産業大学客員教授)

 村上春樹氏のフィッツジェラルドへの敬愛と小説への愛が行間から溢れ出る翻訳。過去の愛を追い求めた男のひと夏の狂おしく哀しい物語が美しく心に響く。

 極貧家庭で育った青年ジェイは第一次大戦で入隊し、基地近くの町で金持ちの娘デイジーと恋に落ちる。戦地へ行ってからも一途に想い続けるが、彼女は大富豪の息子と結婚してしまう。戦後、アメリカ経済は活況を呈し、大都市では豊かになった人々が享楽的な生活を送る狂騒の時代が到来。NY中心部に近いロングアイランドに建つ壮麗な大邸宅での週末ごとの大パーティー。主の紳士ギャツビーの素性は誰も知らない。だが、彼こそはかつての貧しい青年ジェイだった……。

 ’74年の映画『華麗なるギャツビー』は、『ゴッドファーザー』で大成功を収めたフランシス・フォード・コッポラが脚本、イギリス人ジャック・クレイトンが監督を務め、原作の魅力と雰囲気を台詞と映像に見事に昇華させた。ギャツビー役のロバート・レッドフォードの切なくなるほどの甘い二枚目ぶりと少しはにかんだような笑顔にメロメロ! ギャツビーが愛したデイジー役のミア・ファローは妖精のような儚げな美しさで自覚無しに男の心を翻弄するお嬢様育ちの人妻になり切った。彼を捨てた理由を問われたデイジーが「金持ち娘は貧しい人とは結婚しないの」と涙ながらに告白、それを涙目で聞くギャツビー。原作にない告白シーンだが、この言葉が悲劇のすべてを物語る。さすがコッポラの脚本と感心。

 ’13年のレオナルド・ディカプリオ主演の『華麗なるギャツビー』、監督はバズ・ラーマン。CGを駆使した映像が安っぽい。ビヨンセなどポップスやラップまで使った音楽もド派手。全編、間がなく、前半はまるでミュージック・ビデオ。ギャツビー邸の隣の小さな家に住むニックがひと夏の出来事を回想する形は2本の映画とも原作と同じだが、印象は静と動ほど違う。でもディカプリオの思いつめたような必死の形相と無邪気な笑顔の落差がかえって切なく、胸が締め付けられる。映画を見比べると面白い。複数の翻訳本が出ているので、読み比べもお勧め。

新潮社 週刊新潮
2023年7月6日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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