『一球の記憶』
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『一球の記憶』宇都宮ミゲル著(朝日新聞出版)
[レビュアー] 金子拓(歴史学者・東京大教授)
目次をみて唸(うな)った。評者が子供の頃に夢中になったプロ野球選手の名がずらりと並んでいたからだ。著者が同い年と知り納得した。
1970年代から80年代にかけて活躍した野球選手37人に対するインタビューをまとめた本である。書名にあるように、その選手にとって最も印象に残る「一球」が話の中心となっているが、内容はそれにとどまらない。
それぞれの現役時代の活躍ぶり、印象深い対戦相手や恩義のある指導者の話、その人の野球論や技術論、自慢や懺悔(ざんげ)、悔恨などの興味深い話が詰まった実に愉快で濃密な一冊である。
ページをめくり新たな人の章が始まるたび、「懐かしい」と何度呟(つぶや)いたことか。子供の頃に彼らのフォームをよく真似(まね)たことを思い出した。記憶に残る人ばかりだ。取材当時の肖像写真は現在の姿を伝えるが、皆さん「やりきった」という充実したお顔をされていて、それだけで嬉(うれ)しくなる。
不思議なのは、読んでいて長嶋・王、いわゆるONの姿が強く逆照射されること。対戦相手や指導者・同僚としてふたりの存在の大きさが浮かんでくる。