『奇跡のフォント』
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『奇跡のフォント』高田裕美著(時事通信社)
[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)
本が大好きで、物心ついたときから息をするように活字を吸い込んでいた。けれど手助けがなければ呼吸ができない人もいる。ロービジョン(弱視)のため文字がはっきりしない。ディスレクシア(発達性読み書き障害)で文字が動く、重なって見える。視覚過敏で明朝体のはねやはらいが突き刺さるように感じられる。長年、フォントの世界に関わった著者がある日気づいた、取り残された人々。
なぜ読みづらいのか、どうすれば読みやすくなるのか考え抜き、8年の歳月をかけてUDデジタル教科書体を完成させた。
誰かの書いた文字が、印刷の誕生で活字となり、デジタルでフォントになる。少しずつ、誰もが当たり前に文字を読めるようになっていく。けれどそこには並々ならぬエネルギーと情熱が必要だ。このフォントの美しさは、きっと形だけにあるのではないのだろう。