『愚者・奇術師』
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『タロットの美術史〈1〉 愚者・奇術師』鏡リュウジ著
[レビュアー] 東畑開人(臨床心理士)
心はレントゲンには写らないけれど、絵にすることはできる。タロットカードがそれだ。たとえば、「恋人」のカードはあなたの恋する心を絵にしているし、「皇帝」のカードはあなたの支配したい心を絵にしている。
全12巻の本シリーズ『タロットの美術史』は、心を絵にしてきた歴史を一望させてくれる。たとえば、この第1巻では「愚者」が扱われている。私たちの中の愚かな部分が、実は鳥のように自由であり、だからこそひどく孤独であり、そして実は賢くもある矛盾を、タロットカードの様々な図案たちが教えてくれる。
楽しい本だ。心にいろいろな面があることを見せてくれる。同時に、不気味な本でもある。未来がわからない、そういう私たちの根源的な不安を生々しく描いた本であるからだ。しかし何より美しい本だ。心が絵になる。すると、そこに遊びが生まれ、意匠が凝らされる。これが素晴らしいのだ。(創元社、1650円)