『家事は大変って気づきましたか?』
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読者の三分の一は男性という驚き。その秘密は?
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
タイトルにどきりとさせられた読者も多いだろう。本文を読めば、「名前のない家事」や「育児のレジャー化」など、“それだ!”と叫びたくなるようなキーワードに出会うことになる。
本書はさまざまな統計データに加えて時代ごとに流行したTV番組やCM等の表現を検証しながら、家事に対する人びとの意識の変遷を読み解いたものだ。昨年九月に店頭に並び始めると、“家事をめぐるモヤモヤがすっきり言語化されている!”と感動を伝える声が続出。現在四刷と順調に版を重ねている。
さらに注目すべきは読者の男女比だ。従来こうしたテーマの本を手に取るのはほとんどが女性だった。ところが「本書の場合は読者の三分の一近くが男性といった印象です」と自身も男性の担当編集者は語る。
家事労働の偏りをはじめ、政府やメディアが主導してきた性別役割分担の破綻をわかりやすく解き明かす本書だが、多種多様な資料に基づき網羅的に論じている点も特徴で、誰かを糾弾するような文章にはなっていない。「作者の阿古さんは、あくまで生活の在り方の違いを考慮しながら“どうしたらより良いパートナーシップをつくれるか”という点に主眼を置いて書かれています。編集の際も、“男性の側から見てこの言い方は受け入れにくいんじゃないかという部分があったら具体的に教えてほしい”と言われました」(同)
実はこの本の制作には、世代も性別も異なる複数の編集者が関わっている。「たとえば私自身は編集当時もうすぐ三十歳で、ちょうどお付き合いしている人と同居するタイミングということもあり、まさに家事分担というテーマにリアルに直面した時期でもありました」(同)―そうした実感を含め、異なる立場で家事にコミットしている人たちの視点から“家事”像の違いをあぶりだし、今まで可視化されてこなかった問題をみごとに整理してみせた点が、今回のベストセラーにつながったのだろう。
「働き方の転換期にあるいま、それぞれのパートナーシップに合う家事の在り方をゼロベースでつくりあげていくきっかけになればいいなと思っています」(同)