〈あいまいなものを大事にする〉解答より過程の叢書が人気

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ことばの白地図を歩く

『ことばの白地図を歩く』

著者
奈倉 有里 [著]
出版社
創元社
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784422930992
発売日
2023/06/14
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

〈あいまいなものを大事にする〉解答より過程の叢書(シリーズ)が人気

 現実の問題に“正解”はない。世界は白と黒では分けられない。本を読むとは、“答えを知る”ための手段であるよりも、“あいだにとどまって考える”という営みであるべきなのではないか―。そんなコンセプトのもと、今年四月に創刊されたのが、十代以上のすべての人に向けた人文書シリーズ「あいだで考える」だ。現在三冊が刊行され、いずれも順調に重版が決定。各所で話題を呼んでいる。

「従来の十代向けの本は“知識を提供する”という部分に重点を置いた本が多かったように思いますが、このシリーズの主眼は“あいまいなものをそのまま大事にする”“葛藤を抱えたまま考える”という部分にあるんです。“わかりやすさ”とは対極にあるようなコンセプトにもかかわらず、とてもしっかりした反響をいただけて嬉しいです」と担当編集者のひとり、創元社の内貴氏は語る。

 既刊は頭木弘樹『自分疲れ ココロとカラダのあいだ』、戸谷洋志『SNSの哲学 リアルとオンラインのあいだ』、奈倉有里『ことばの白地図を歩く 翻訳と魔法のあいだ』。いまの社会において切実な問いをすくいあげるテーマ設定はもちろん、さまざまな分野の「実践者・当事者であること」に重きを置いた著者陣も特筆すべき点のひとつだ。

「例えば、『ことばの白地図を歩く』を執筆してくださったロシア文学研究者・翻訳者の奈倉有里さんは、偏見や分断に足をすくわれずに文化という概念自体をときほぐすプロセスを“クエスト形式”にするアイディアを提案してくださいました。奈倉さんをはじめ、社会の“あたりまえ”を問い直すような活動をしている人たちだからこそ、上から知識を与えるのではなく、読者と目線を合わせながら一緒に考えるということを大切にしているのではと感じています」(同)

 各巻に初刷限定で挟み込まれた「あいだ新聞」も好評だ。これは著者が十代の頃のエピソードや制作の裏話を伝える小さな新聞で、装丁家の矢萩多聞氏からの提案だった。「イラストを含め、まさにいろんな立場にある人たちのあいだで交わされた対話が息づいている本だと思います」(同)。

新潮社 週刊新潮
2023年8月10日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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