『異能機関 上』
- 著者
- スティーヴン・キング [著]/白石 朗 [訳]
- 出版社
- 文藝春秋
- ジャンル
- 文学/外国文学小説
- ISBN
- 9784163917177
- 発売日
- 2023/06/26
- 価格
- 2,970円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『異能機関 下』
- 著者
- スティーヴン・キング [著]/白石 朗 [訳]
- 出版社
- 文藝春秋
- ジャンル
- 文学/外国文学小説
- ISBN
- 9784163917184
- 発売日
- 2023/06/26
- 価格
- 2,970円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『異能機関 上・下 (原題)THE INSTITUTE』スティーヴン・キング著(文芸春秋)
[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)
地獄脱出図る天才少年
面白い、面白くないではなく一気呵成(かせい)に読める本と、なかなか読み進められない本がある。本書は後者。一章読んでは、本を閉じて他のことをする。先を読むのが怖い、だけど読みたい。
スティーヴン・キングは、エンターテインメントのキングであると同時に、悪意や残酷な状況のキングでもある。その伝家の王笏(おうしゃく)が刺さる。特に今回は主人公の子供が、容赦なく悲惨な状況に追いやられるので、とても辛(つら)い。
12歳の少年ルークは、ある晩、自宅からさらわれ〈研究所〉と呼ばれる施設に放り込まれる。そこにはテレキネシスとテレパシー、いわゆる超能力と呼ばれる特性を持つ子供たちが集められていた。だが彼には他の子と違う点が一つだけあった。天才少年だったのだ。
繰り返される拷問じみた訓練、躊躇(ちゅうちょ)なくふるわれる暴力、謎の注射、無理矢理に開花させられる能力。スタッフたちは子供たちのことを消耗品として使い捨てていく。なぜ、なんのために。答えを与えられないまま、ただ暴力と残酷さの前に死んでいく子供たち。
だけどルークは違った。
仲間と力を合わせ、地獄からの脱出を試みる。けれどたとえ外に出られたとして、12歳の少年の話を誰が信じるだろう。
怖いのが、ルークの置かれた状況が現実の陰謀論と重なること。アメリカでは実際に年間数十万人もの子供たちが行方不明になる。だいたいはすぐに見つかるが、見つからない子供もいる。それは本当は組織的な誘拐で、とあるピザ店の地下に閉じ込められ、脳から若返りの薬を採取されたり、児童売春に従事させられている、という陰謀論があった。普通の人は一笑に付して終わるけれど、本書を読んだあと何人かは「もしかして?」と思ってしまうかもしれない。
時にスティーヴン・キングの書くものは、世界を揺るがす劇薬だ。用法用量を守って、計画的な読書を。白石朗訳。