タイ料理は食べるのに!ぜんぜん知らないから面白い「タイと日本の働き方」の違い

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だからタイはおもしろい

『だからタイはおもしろい』

著者
髙田胤臣 [著]
出版社
光文社
ジャンル
社会科学/民族・風習
ISBN
9784334101350
発売日
2023/11/15
価格
880円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

タイ料理は食べるのに!ぜんぜん知らないから面白い「タイと日本の働き方」の違い

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

だからタイはおもしろい』(髙田胤臣 著、光文社新書)の著者は、タイと日本との関係について次のように記しています。

歴史を紐解くと、タイと日本が修好条約を結んだのは一八八七年(明治二〇年)九月二六日となっている。「日暹(にちせん)修好通称に関する宣言」が根拠で、これが今のタイと日本が正式に国交を開いた日だ。それ以前、およそ六〇〇年前のアユタヤ王朝時代にはすでに御朱印船による交易もあり、タイ人と日本人の関係は、実際はもっと長くて深い。(「はじめにーー素のタイ人と真の絆を結ぶために」より)

意外と長い関係があることに驚かされますが、そのわりに私たちの多くは、タイという国やタイ人について多くを知らなすぎるのではないでしょうか? タイ料理はおいしくいただいているにもかかわらず。

「タイ人」というと、途端にどんな人々なのか明確に答えられない。

もちろん、人それぞれにドラマがあり、ひと言でタイ人を語ること自体が難しい。とはいえ、日本と東南アジアとの経済的なつながりも日々強まり、日本企業の進出も目覚ましい中でタイに移住する人などは早急にタイ人の実像を知りたいところだろう。(「はじめにーー素のタイ人と真の絆を結ぶために」より)

そこで本書では、2002年からタイで暮らしているという著者が、自らの目で見た“タイ人の本当の姿”を解き明かしているのです。

きょうは仕事に関するトピックスをまとめた第11章「タイ人と働くということはタイ人に自分の心を開くこと」のなかから、「日本とは違うタイの働く仕組み」に焦点を当ててみたいと思います。

言葉尻をとらえ、トンチを利かせる

タイ人の公務員は国王に仕える身分なので、自然と一般市民よりちょっと偉い。

タイの公務員はこの立場を最大限に利用する。利用とは主に小遣い稼ぎだ。給料が安い分、立場を利用して甘い汁を吸うのである。(181ページより)

なんとも穏やかではない話ですが、そもそも日本とタイとでは公務員の在り方が大きく異なるようです。日本において公務員は安定した職種ですが、一般職の給与は一般企業よりも多少低いはず。もちろんタイの公務員も給与は低いのですが、物価に見合っていないほど低い設定なのだそうです。

執筆時点で定められている一般職の給与は四八七〇バーツ(約一・九万円)〜七万六八〇〇バーツ(約三一万円)だ。これに役職手当などが加わる。手当はおおむね〇〜二万一〇〇〇バーツ(約八・四万円)で、最大でも九万七八〇〇バーツくらいだ。

最大値は、警察でいえば長官クラスのようなトップの人の額なので、採用内容や配置先で手取りはだいぶ異なる。(181〜182ページより)

仮にいちばん下の給料で働きはじめたとしたら、年収はボーナスや手当を加味しないと5.8万バーツ程度。タイの平均世帯収入が月2.7万バーツだというので、1年間で平均世帯収入のわずか2か月分程度しか稼げないわけです。ただし公務員は福利厚生が手厚く、年金や退職金は確実にもらえ、教育費や医療、住宅など補助も多いそうです。

とはいっても生活が苦しいのは事実であるため、タイの公務員のなかには副業をはじめる人も少なくないといいます。でも、その内容は日本人からすればいささか“フリーダムなかんじ”でもあります。

警察官は拳銃を自由に所持できるという立場を利用してパートタイムの警備員を務めるなど、各々の職種に合ったスキルやその役職で使える権利を私的に利用する。

なにかの窓口担当の場合なら申請の融通を利かせるなどして、相手からなにかしらの便宜を受けることもある。(182ページより)

ただしそんなタイといえども、現金を含め、なにかを受け取ることは本来的には違法。役所によっては賄賂の授受を明確に禁じ、だいぶクリーンになってきてはいるようです。しかし、「そのぶん申請が通りにくくなる」などの皮肉な事態も起こることになったのだとか。

というのも、賄賂は上から禁じられているものの、言葉尻をとらえるというか、トンチを利かせているというか、「申請に来た人に賄賂要求は禁じられている」のだから、窓口で要求しなければいいんだ、と考える公務員がいる。

のらりくらりと申請を引き延ばし、申請者が代行業者に相談するように仕向けるのだ。代行業者は申請者ではないので、ここから徴収し、業者はその分を代行料金に乗せてくる。(182〜183ページより)

昔のタイでは、組織で働くということは公務員になることを意味し、ほかの多くは自営業だったといいます。

近年の若い世代では親世代が会社員だという人も見られるようになったものの、40代以上の会社員だと家族・親族に会社員として長く生計を立ててきた人がほとんどいないのだそうです。そのため、いまもタイ人には「会社で働く」というロールモデルが身近に存在しないともいえるわけです。

つまり、会社で働くという意味や責任、常識が日本と異なる理由はそこにあるようなのです。(181ページより)

そもそも就職活動の仕組みが違う

タイはそもそも、就職活動の仕組みが日本と違う。

まず、大学生のときに働くという概念がない。学校の課題などが忙しいこともあろうが、アルバイトあるいはパートタイムという働き方がないためだ。実態としてまったく存在しないというよりは、そういった「概念」がない。

大学に通う学生の保護者は収入レベルがそれなりに豊かで、大人は学生時代にアルバイトをしない。中流層の学生などは夏休みなどの長期休業時期に大手のスーパーや飲食チェーンで。超短期で働くことはある。それでも、それもひと握りといったところだ。(183〜184ページより)

当然のことながら、日本のような就活や、同時期に一斉に雇用するスタイルもなし。そこには、大学を卒業するタイミングがそもそも共通していないという事情も影響していそうです。

タイの大学はアメリカなどのように9月が年度の始まりになっていたり、卒業時期が3月前後と定まっていなかったりするうえ、決めるのは学校次第だというのです。国立大学の卒業式は王室のスケジュールにもよるため、遅ければ8月を過ぎることも。

つまり、タイと日本では就職の流れそのものが大きく異なるということ。いろいろな意味でスタート地点が違うのだから、会社員という働き方に対する意識が異なるのも当然であるわけです。

著者がいうように、今後もタイと日本の関係はより親密なものになっていくことでしょう。したがって、「タイ人と一緒に働く」ことがさらに一般化する可能性は大いにあるわけです。だからこそ、読みものとしても純粋に楽しめる本書を通じ、タイ人のさまざまな側面を知っておくべきかもしれません。

Source: 光文社新書

メディアジーン lifehacker
2023年12月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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