『白鷺烏近なんぎ解決帖』
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[本の森 歴史・時代]田中啓文『白鷺烏近なんぎ解決帖』
[レビュアー] 田口幹人(書店人)
田中啓文氏は、ミステリ、ホラー、伝奇と様々なジャンルで活躍されているイメージが強かったが、近年はミステリと歴史小説を融合させた『信長島の惨劇』(早川書房)など、本格歴史小説を上梓してる。
さらには、大坂を舞台にした、大食漢で美食家の、人呼んで大鍋食う衛門が事件に挑む「鍋奉行犯科帳」シリーズ(集英社)、裁きの遅い東西町奉行所に代わり横町奉行が庶民の揉め事を解決する「浮世奉行と三悪人」シリーズ(集英社)、売れない絵師と小僧さんたち、そして貧乏神が織りなす江戸版少年探偵団「貧乏神あんど福の神」シリーズ(徳間書店)など、魅力的なキャラクターが多数登場するコミカルな書き下ろしシリーズで多くのファンを獲得している。
『白鷺烏近なんぎ解決帖』(光文社)は、氏の最新刊である。
白鷺家は、泉州岸和田五万三千石の岡部家に代々仕える家柄で、馬廻り役として百石を拝領していた。烏近は、白鷺喜三郎の長男として生まれ、元服した後は家督を継ぐ前に、小姓として岡部美濃守の側に仕えていた。気まぐれなうえに、わがままで無理難題を言いだす怒りっぽい殿の下、閉塞感が漂う家臣団の中で、持ち前の機転の良さを発揮しながら殿が繰り出す無理難題を解決し、家老からも一目置かれる存在となっていた。
そんな中、烏近は岡部家の家督争いに巻き込まれ、投獄されることになる。城勤めの者が君主から勘気をこうむっては白鷺家の面目が立たないことから、白鷺喜三郎から勘当され、親子の縁を切られることになるのだった。
流れ着いた土佐堀川にかかる淀屋橋のたもとで、川に浮かべたぼろぼろの屋形船に暮らす烏近の下に、岡部家の中老・蚊取源五郎が訪ねてくるところから物語がはじまる。
殿から、家臣団では解決することができないある難題が発せられ、困り切っていた蚊取の頭に浮かんだのが烏近だったのだ。こんな境遇に貶めた、かつての主君のために働くことを拒んだ烏近だったが、捨て去ることができない岡部家へのある想いがあり、しぶしぶ引き受けることに。牢の中で知り合った小悪党・与市兵衛と南蛮手妻師・霧雨紺太夫とともに無理難題に挑むのだった。
本書は、その出来事がきっかけとなり立ち上げた「ご無理ごもっとも始末処」で、烏近と手練れでクセ者揃いの仲間たちが、客の持ち込むなんぎな依頼とその裏に隠されている真実を解き明かしていく、そんな連作時代ミステリとなっている。
帯や書誌データには、新シリーズともシリーズ第一巻とも記載はないが、ぜひシリーズ化をしていただきたい。