『アートとフェミニズムは誰のもの?』
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アートの「権威」をフェミニズムで相対化
[レビュアー] 田中秀臣(上武大学教授)
アートとフェミニズムという、門外漢にはハードルの高い分野を掛け合わせると不思議に両方ともにすらすらと理解が進む。そんな魔術めいた村上由鶴『アートとフェミニズムは誰のもの?』は、アートもフェミニズムもすべての人のものだ、という力強いメッセージを軸にしている。
この軸がぶれていないことが、本書のわかりやすさの理由だ。アートもフェミニズムも専門家たち独自のルールで議論されており、「こう考えるべきだ」という“べき論”が支配している。特に現代アートは専門家たちの提供する知識や解釈が権威をもっている。
だが、その「権威」をフェミニズムというレンズを通して見ると、押し付けられた知識は相対化される。マグリット、ゴーギャン、マネらの作品のフェミニズム的な観点での再解釈はわかりやすい。またフェミニズムをアートで実践する芸術家たちの試みも示唆に富み刺激的だ。主張をまとめた手描きのイラストもいい。
他方でフェミニズムもやはり「権威」である。フェミニズムが人種差別や障害者差別を内に秘めていたことを告発した現代アートは「みんなのもの」を目指すフェミニズムにとって改善への可能性をひらく。他方で、抑圧された人たちの怒りを伝えることで、鑑賞者の心を意図的に傷つける現代アートもある。攻撃性をアートがもてば「みんなのもの」になりにくい。傷つくのを避ける人がいるからだ。この点は本書では周縁扱いだが、考えてみたい問題だ。