悲観せず、飲まれない。自分の「さみしさ」と上手につきあい乗りこなせるようになるコツは?

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人は、なぜさみしさに苦しむのか?

『人は、なぜさみしさに苦しむのか?』

著者
中野信子 [著]
出版社
アスコム
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784776212690
発売日
2023/08/31
価格
1,397円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

悲観せず、飲まれない。自分の「さみしさ」と上手につきあい乗りこなせるようになるコツは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

「さみしい」ということばには、どこかネガティブな印象があるかもしれません。しかし『人は、なぜさみしさに苦しむのか?』(中野信子 著、アスコム)の著者は、「じっくりと味わうもの」というようなイメージを持っているのだそうです。

「孤独」にも同じことがいえるかもしれませんが、たしかにそういう捉え方もできそうです。とはいえその一方、さみしさには、「とても根深く、悪くすれば生きる気力すら失ってしまう、重い感情」としての側面もあるはず。

さみしさは誰にでも生じる感情ですが、対処法を間違えると怒りや憎しみなどのネガティブ感情を誘発し、攻撃性が高まってしまうこともあるものなのでしょう。また、寂しいという感情を、悪意を持った人に利用されてしまうと、騙されるなどのリスクにもつながりかねません。

そのため、さみしさと向き合う際に起こりがちな、思い込みや刷り込み、偏見などを引きはがし、上手に取り扱う方法を身につけることが大切なのです。もちろん、さみしさの扱いが上手になったからといって、さみしいという感情を完全になくせるわけではありませんが。

しかし、さみしさの扱いに慣れ、その生じる仕組みを理解することで、さみしさを必要以上におそれることなく、振り回されることもなく、上手に付き合いながら、長い人生をより豊かに、価値的に過ごしていくことができるようになるはずです。「わたしはさみしくみじめな人間だ」などといった、認知のゆがみから自分を解き放ち、悠々とさみしさすらも自分の味方につけていけるのではないかと思うのです。(「はじめに」より)

そこで本書において著者は、脳科学的、生物学的な視点から、さみしさの持つ機能と危険性についても理解を深め、その感情とどうつきあっていけばいいのかについて対策法を考えているのです。きょうは第5章「さみしさとうまく付き合っていくために」のなかから、2つのトピックスを抜き出してみたいと思います。

人間関係には「劇的な変化」を期待しない

人とつながりを持つうえでは、人間関係に「劇的な変化」を期待してしまうことに注意するべきだと著者は述べています。たとえば誰かに話しかけ、たまたま会話が弾んだとしても、相手がすぐに自分を元気づけてくれるようなコメントを与えてくれるとは限りません。したがって、自分が元気になるかもしれないことを過度に期待するべきではないのです。

まずは、なんでもいいので、自分がそれまでできなかったことができたときに、自分で評価するというマインドセットをつくることです。

例えば、人に話しかけるのが苦手だという意識のある人は、自分から人に話しかけることができた、ということを、自分できちんと評価してあげるのです。(229ページより)

たとえば宅配便の配達員の方に、「おつかれさまです。いつもありがとう」と話しかけるだけでも違うかもしれません。その結果、自分が期待したほどの笑顔を向けてもらえなかったとしても、がっかりする必要はなし。相手も人ですから、こちらには想像できないような理由があったとしても不思議ではないはず。少なくとも、こちらのせいとは限らないわけです。

忘れないように気をつけなければならないことは、あなたが潜在的に抱えているさみしさへのおそれや、あなたにかかっているストレスを、都合のいいように利用して、あなたを探ろうとする人がいる可能性について、いつでも思い出せるようにしておくことです。(230ページより)

ダメージが重なって心身ともに疲れているときには、そこに取り入ろうとする人を撃退するだけの力が残っていないこともあります。したがって、そんなときは直接対峙することを避け、できるだけリスクを回避できるように、自分の身を守っていくことを優先するという判断や認識を持っておく必要があるのです。

全世界のあらゆる人とべったりと仲良くする必要などどこにもありません。衝突し合わなければいいだけです。(232ページより)

そして、選択権もいつも自分にあるということを覚えておくべき。悪意ある人を上手にかわしつつ、いいつながりを見つけていくことが大切なのです。(228ページより)

人づきあいのコツは期待も要求も批判もしないこと

ほどよい距離感で人とつきあっていくうえで大事なポイントとして、著者は以下の点を挙げています。

・期待しない

・要求しない

・批判しない

(243ページより)

ただし難しく考える必要はなく、人づきあいがうまくないからといって悲観する必要もないようです。その相手とは相性が悪かっただけかもしれませんし、そもそも相性のよい人などめったにいないものでもあります。また、人づきあいがうまそうに見える人も、うまそうに見せるのがうまいだけかもしれないのです。

良好な関係を維持している人は、相手は自分とは違う人間であることを理解し、なにもかもすべてを共有できるわけではないことを知っています。

相手が自分を拒絶しているのではないかと不安になったときでも、「そういうこともあるし、必要以上に悲観しながら付き合うのは心身の健康にもよくない」と考え、自分の気持ちを制御することも大切なことです。(229〜230ページより)

なお、人とのつながりがなくてさみしいときは、「自分がどんなつながりに価値を感じるのか」を考えてみるといいそうです。

本当に自分の話すことにすべて共感してくれるような、とても親しい間柄の誰かを求めているでしょうか? もしかしたら、そうではないかもしれません。

そこまで深い関係でなくても、安心して他愛もない会話ができるような浅い関係の相手がいることで、そのさみしさは消えていくのかもしれません。(230ページより)

つまり「さみしい」という感情だけでなく、「さまざまな感情をうまくコントロールするためにも必要な人間関係」を構築しておくことも大切だということです。(242ページより)

冒頭でも触れたとおり、さみしさは誰しもが抱えてしまいがちな感情です。だからこそ、さみしさを感じやすい人も、さみしさを感じにくいがために生きづらさを感じている人も、自分の感情を捉えなおすためのツールとして本書を活用してみるべきかもしれません。

Source: アスコム

メディアジーン lifehacker
2023年9月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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