【児童書】『しかばねの物語』星泉編訳、蔵西(くらにし)絵
[レビュアー] 寺田理恵(産経新聞社)
■チベットの千夜一夜
『アラビアンナイト(千夜一夜物語)』に似た構造を持つチベットの昔話。「幸いをもたらすしかばね(死体)」を墓場から哲学者へ届けるため、主人公が山谷を越えて旅する。「背負ってくるのは簡単だが、ひと言でも口をきいたら手に入らない」。こう戒められた主人公だが、しかばねが道中で語る不思議な話は面白い。つい疑問や感想を口にすると、しかばねは墓場へ飛んでいく-というストーリーが繰り返される。
解説によると、勇気ある王がしかばねを運ぶインドの物語をヒントに、チベット人が作ったとみられる。物語の登場人物が面白い話を語るという入れ子形式の物語を「枠物語」といい、インドからアジア各地に伝わった。『千夜一夜物語』もその一つという。
本書は、しかばねが語る話のうち「羽衣王子」「カエルとお姫さま」など12話を選んで翻訳。家畜の馬・ヤク・羊や運搬に使う革袋、弁当のツァンパ(大麦の煎り粉)、乳をかき混ぜて作るバターなど生活文化の描写が味わい深い。対象は小学校高学年から。(のら書店・1760円)
評・寺田理恵(文化部)