『世界はなぜ地獄になるのか』
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<書評>『世界はなぜ地獄になるのか』橘玲(あきら) 著
[レビュアー] 斎藤貴男(ジャーナリスト)
◆原因はリベラル化と主張
「社会正義」と呼ばれる認識が、圧倒的な力を顕示する時代になった。よいことだと思いたいが、どうやら違う。
引き換えに生じた軋轢(あつれき)や衝突が常軌を逸しつつあるのだ。それは世の中全体がリベラル化したせいだと、著者は説く。「平等」が重視され過ぎて、「自分らしく生きたい」という価値観が肥大化した。光が強ければ影も濃くなる、として論じられるのは、「グローバル空間のルール」としてのポリティカルコレクトネス、脱北者をして「北朝鮮より狂ってる」と言わしめた米国のキャンセルカルチャー、トランスジェンダーをめぐる混乱等々。
いわゆるリベラル派に括(くく)られがちな評者は、リバタリアンに近く、“マイナンバー”まで擁護する著者(『週刊文春』8月17・24日合併号)の主張と相容れないことが多い。本書でも、“リベラル”の原動力たる新自由主義が語られていない点など、一定の不満は残るのだが――。
目下の事態は一筋縄ではいかない。共有できる問題意識の下、本質の一断面を、確実に理解させてもらった感触がある。
(小学館新書・1078円)
1959年生まれ。作家。著書『もっと言ってはいけない』など。
◆もう1冊
『大衆の狂気』ダグラス・マレー著、山田美明訳(徳間書店)