“右と年寄り”が守り“左と若者”が壊そうとしているニッポンの「家庭」、実は近代以降の発明品で保守派に嫌われていた

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「家庭」の誕生

『「家庭」の誕生』

著者
本多 真隆 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784480075901
発売日
2023/11/09
価格
1,320円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

かつて保守派は「家庭」を嫌っていた

[レビュアー] 林操(コラムニスト)

『「家庭」の誕生』なる題名を編集者から提案された当初、著者の本多真隆は「あまり乗り気ではなかった」。家庭が「近代以降の発明品」であることが自分の発見だと誤解されかねないからというんだけれど、読者のワタシは、まずこのタイトルで乗り気になった。

 中世ヨーロッパで小さな大人として手荒に扱われてきた子供が近代から慈しみ育てる弱者に変わったことを示した名著、『〈子供〉の誕生』。その題を、社会学の研究者が自著に本歌取りする以上、中身に相当の自信があるはずと踏んだわけで、この勘は当たった。

 現在ただいまのニッポンを俯瞰するに家庭とは、ミギと年寄りが守ろうとし、ヒダリと若人が壊そうとしている枠組みなんですが、この新書によれば、明治以降しばらくはむしろ、家庭は進歩派が推し、守旧派が叩く対象。比較されたのは、夫婦を単位とする家庭と、家父長制のもとでの家だったから、家よりは家庭の方が新しくて自由だった。

 戦後になって家が公的には解体され、家庭が主流に躍り出るものの、個人主義の拡がりや性別役割分担の否定によって家庭の解体さえ進み、その家庭こそが今や、守るべき伝統に化け果てた。前近代家族=家、近代家族=家庭に続くポスト近代家族(名前はまだない)は着実に増えているのにもかかわらず――。

 読み終えて脳内の靄が晴れ、ふと思い出したのは矢野顕子の古い歌――。壊した家を出たくせに/今 私達は 新しい家をつくる。

新潮社 週刊新潮
2023年12月28日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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