『「家庭」の誕生』
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かつて保守派は「家庭」を嫌っていた
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
『「家庭」の誕生』なる題名を編集者から提案された当初、著者の本多真隆は「あまり乗り気ではなかった」。家庭が「近代以降の発明品」であることが自分の発見だと誤解されかねないからというんだけれど、読者のワタシは、まずこのタイトルで乗り気になった。
中世ヨーロッパで小さな大人として手荒に扱われてきた子供が近代から慈しみ育てる弱者に変わったことを示した名著、『〈子供〉の誕生』。その題を、社会学の研究者が自著に本歌取りする以上、中身に相当の自信があるはずと踏んだわけで、この勘は当たった。
現在ただいまのニッポンを俯瞰するに家庭とは、ミギと年寄りが守ろうとし、ヒダリと若人が壊そうとしている枠組みなんですが、この新書によれば、明治以降しばらくはむしろ、家庭は進歩派が推し、守旧派が叩く対象。比較されたのは、夫婦を単位とする家庭と、家父長制のもとでの家だったから、家よりは家庭の方が新しくて自由だった。
戦後になって家が公的には解体され、家庭が主流に躍り出るものの、個人主義の拡がりや性別役割分担の否定によって家庭の解体さえ進み、その家庭こそが今や、守るべき伝統に化け果てた。前近代家族=家、近代家族=家庭に続くポスト近代家族(名前はまだない)は着実に増えているのにもかかわらず――。
読み終えて脳内の靄が晴れ、ふと思い出したのは矢野顕子の古い歌――。壊した家を出たくせに/今 私達は 新しい家をつくる。