超進学校・開成の元校長が中高生に「一度は手に取って」と語る一冊とは? 中高一貫教育への持論も明かす

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メンタル脳

『メンタル脳』

著者
アンデシュ・ハンセン [著]/マッツ・ヴェンブラード [著]/久山葉子 [訳]
出版社
新潮社
ISBN
9784106110245
発売日
2024/01/17
価格
1,100円(税込)

書籍情報:openBD

超進学校・開成の元校長が中高生に「一度は手に取って」と語る一冊とは? 中高一貫教育への持論も明かす

[レビュアー] 柳沢幸雄(工学博士。東京大学名誉教授。開成中学・高校元校長。北鎌倉女子学園学園長)


柳沢幸雄氏

 10代のメンタルが危ない――。2021年、ユニセフは世界の10~19歳の若者の7人に1人以上が心の病気の診断を受けていると報告し、米国のCDC(疾病予防管理センター)は2023年、10代のメンタルヘルス問題は「国家的危機」とまで警告した。日本でも2022年に自殺した小中高校の児童・生徒は過去最多となっている。

 そんな“危機的状況”のなか、東大合格者数1位の座を42年間にわたって守る超進学校、開成中学校・高等学校校長を2020年まで9年務めた東大名誉教授の柳沢幸雄氏が、「中高生に一度は手に取ってもらいたい」と語る一冊がある。世界的ベストセラー『スマホ脳』の著者で精神科医のアンデシュ・ハンセン氏が上梓した『メンタル脳』(新潮新書)だ。

ハーバード大学で教鞭を執った経験もある柳沢氏が若者に勧める『メンタル脳』とは、どんな本なのか。また、氏が明かした中高一貫教育への持論とは。

 ***

■思春期の若者にとって救いになる言葉

『最強脳』で運動がもたらす10代の青少年の脳への影響を説いたアンデシュ・ハンセン氏が、今度は脳が及ぼす10代の青少年の心への影響について本を書きました。『メンタル脳』です。
『最強脳』の時にも思ったことですが、この人は中学生や高校生の気持ちがよくわかっています。「まえがき」に「書こうと思ったのは自分が10代の頃に読みたかった本です」とありますが、きっとそうなのでしょう。それは本の構成にもよく現れています。
「第1章なぜ私たちは生きているのか」に始まって、「なぜ感情はあるのか」「なぜ不安を感じるのか」「なぜ記憶に苦しめられるのか」「なぜ引きこもりたくなるのか」「なぜ運動はメンタルを強化するのか」「なぜ孤独とSNSはメンタルを下げるのか」「なぜ『遺伝子がすべて』ではないのか」「なぜ『幸せ』を追い求めてはいけないのか」と続きます。
 もしかしたら一生かけても答が見つからないかもしれないこれらの問いは、この年代の人間がしばしば囚われるものでしょう。10代の若者なら、あるいは大人でも引き込まれる人は多いのではないでしょうか。
 そして活字を辿れば、この著者ならではの平易な書きぶりは意味がすっと入ってきます。中学生や高校生が充分読みこなせるわかりやすさです。

 現代人の脳はかつてサバンナで暮らしていた何万年か前からさして進化していないとハンセン氏は言います。その上、「脳は今でも自分たちはサバンナで狩猟採集民として暮らしていると思っている」と言います。人類が誕生して700万年とか600万年と言われています。ホモ・サピエンスが登場したのが30万年前とか20万年前だとして、農耕や牧畜が始まったのはせいぜい1万年前です。ハンセン氏の言うことは大げさではないでしょう。
 そのサバンナ時代を生きのびるために進化した脳が、現代のさまざまな刺激に反応することで、過度な不安やパニック障害、PTSDやうつ症状を引き起こすのだと彼は説きます。同時に、それらは脳が自分を守るための「防御メカニズム」だとも言うわけです。人間の自然な機能であり、その人が「病気だとか壊れているとかいうわけではない。もちろん性格のせいでは絶対にない」とまで言い切ります。
 これは、ともすれば「自分はちょっと人とは違うのではないか」「おかしいのではないか」と思いがちな思春期の若者にとって、救いになる言葉ではないでしょうか。

新潮社
2024年2月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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