「AV女優、のち」 著者の“適度な距離感”が描くもの

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

AV女優、のち

『AV女優、のち』

著者
安田, 理央, 1967-
出版社
KADOKAWA
ISBN
9784040821771
価格
968円(税込)

書籍情報:openBD

優しく客観的に描き出す元トップ女優たちの過去と未来

[レビュアー] 吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター)

 永沢光雄のAV女優インタビューが好きだった。酒の飲み過ぎで下咽頭癌を患って43歳にして声を失い、鬱にもなり、47歳で亡くなる。そんな人が相手の弱さに寄り添うように、文学っぽさすら感じる美しい文章にしていて、程よくブルージーで。AV女優を見下すような視点で、取材相手からも批判されがちな、ある書き手とは決定的に違った。

 結局、AV女優を取材する上で重要なのは、聞き手のスタンスなんだと思う。安田理央はAVの監督もしていたが、テクノポップ系バンド出身のエロ系ライターで、AV業界には詳しいけれど、そこに適度な距離感のあるタイプ。それがプラスにもマイナスにもなっているのがこの本だ。AV女優への視線は基本的に優しいし、AV業界への視線も優しい。そして客観的でもあるので、当時23歳のみひろをAV業界に引きずり込んだプロデューサーが、女優になるには「知名度を上げないとダメ」「そのためにはAV」と説得したことについて、こう書いている。

「正直に言えばプロデューサーの説得はAV業界に入れるための“常套手段”だと感じた。あたりまえだが、AVに出なければ女優としての未来はないなどということはないだろう。だが結果として、みひろのこの判断が正しかったのか、それとも間違っていたのかはわからない」

 こういうバランス感覚の人なので、AV出演の過去を抱えて前向きに生きている7人のインタビューの後、「AV女優をやってたことは、めちゃめちゃ後悔してますよ。一時期は10年前に戻って人生をやり直す妄想をしていたくらいです」「やっぱりネットが一番怖いですね。どんなに逃げても、いつまでたってもネットからは逃げられない。検索したら全部わかってしまうから」というコメントも匿名で載せてみせる。優しさゆえに踏み込みの甘さを感じる部分もあるが、よっぽどの覚悟がないと立ち入っちゃいけない世界だってことはちゃんと伝わってくるのである。

新潮社 週刊新潮
2018年7月5日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク