第21回大藪春彦賞が決定 河崎秋子『肉弾』と葉真中顕『凍てつく太陽』がW受賞

文学賞・賞

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 第21回大藪春彦賞の選考会が23日、東京・新橋の第一ホテルアネックスにて行われ、河崎秋子さんの『肉弾』(KADOKAWA)と葉真中顕さんの『凍てつく太陽』(幻冬舎)の受賞が発表された。

 受賞作の『肉弾』は、北海道の山中で熊に父親を殺され、ひとり取り残された青年・キミヤが、野生の恐ろしさや自然の厳しさと闘う姿を描いた作品。極限の状態を体験した青年は、次第に野生に目覚めていく。

 女優の中江有里さんは、本作について「食うか食われるかの世界で生きるためには、食う側になるしかない。たとえ熊が相手でも戦わなければ食われるだけだ。キミヤが自らの野性を爆発させるときは、不思議な高揚感が漂う」(週刊新潮・書評)と評している。
https://www.bookbang.jp/review/article/542756

 著者の河﨑さんは、1979年北海道別海町生まれ。北海学園大学経済学部卒業後、ニュージーランドで1年間、緬羊飼育技術を学ぶ。自宅で酪農従業員のかたわら、緬羊を飼育・出荷。2012年に「東陬遺事」で第46回北海道新聞文学賞(創作・評論部門)を受賞。2014年に「颶風の王」で三浦綾子文学賞を、2015年にJRA賞馬事文化賞を受賞する。

 もう一つの受賞作『凍てつく太陽』は、終戦間際の北海道・室蘭を舞台に、アイヌ出身の特高刑事・日崎八尋が、軍需工場に関わる朝鮮人将校と部下が次々と毒殺される事件を捜査する戦時ミステリー作品。日崎は、毒殺事件の捜査をしていく中で、陸軍がひた隠しにする軍事機密「カンナカムイ」の存在に迫るが、事件の背後で暗躍する者たちに翻弄されてゆく。

 コラムニストの香山二三郎さんは、本作について「日本とアイヌ、朝鮮間の民族差別問題を掘り下げ、それに根ざした冤罪沙汰でひと山作る一方、吉村昭の名作『羆嵐』を髣髴させるヒグマホラー(!?)を絡めるなどして、日崎八尋の受難劇を膨らませていく。そこから戦争批判を高めつつ、カンナカムイをめぐる殺人事件も二転三転させていくエンタメ手腕はあっぱれのひと言だ」(週刊新潮・書評)と評している。
https://www.bookbang.jp/review/article/558083

 著者の葉真中さんは、1976年東京都八王子市生まれ。2009年にはまなかあき名義の「ライバル」で第1回角川学芸児童文学賞優秀賞を受賞。2013年に『ロスト・ケア』で第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。2015年に『絶叫』で第36回吉川英治文学新人賞候補ならびに第68回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)候補。2017年に『コクーン』で第38回吉川英治文学新人賞候補。主な著作に『ブラック・ドッグ』『政治的に正しい警察小説』『W県警の悲劇』などがある。

 大藪春彦賞は、作家・大藪春彦の業績を記念して創設された文学賞。主にハードボイルド小説・冒険小説に分類される小説を対象とし、優れた物語世界の精神を継承する新進気鋭の作家及び作品に、毎年、授与される。第21回の選考委員は、大沢在昌さん、黒川博行さん、藤田宜永さんの三名が担当した。

 昨年は、犯罪加害者との共存をテーマに描いた呉勝浩さんのミステリー小説『白い衝動』(講談社)と一頭の類人猿「アンク(鏡)」の謎に迫るパニックスリラーを描いた佐藤究さんの『Ank: a mirroring ape』(講談社)の2作が受賞。過去には福井晴敏さんの『亡国のイージス』(第2回)、雫井脩介さんの『犯人に告ぐ』(第7回)、近藤史恵さんの『サクリファイス』(第10回)などが受賞している。

 第21回の候補作品は以下のとおり。

『赤い靴』大山淳子[著]ポプラ社
『肉弾』河﨑秋子[著]KADOKAWA
『黙過』下村敦史[著]徳間書店
『凍てつく太陽』葉真中顕[著]幻冬舎
『ベルリンは晴れているか』深緑野分[著]筑摩書房

Book Bang編集部
2019年1月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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