『1988年のパ・リーグ』
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1988年のパ・リーグ 山室寛之(ひろゆき)著
[レビュアー] 満薗文博(スポーツジャーナリスト)
◆激震の年 舞台裏に切り込む
ネット裏の記者席にいたら鈍い音が聞こえた。見ると、同業他社の記者が「イスが壊れた」と、頭をかいていた。現在は、アメリカンフットボール場に姿を変えたが、かつての川崎球場は老朽化が進み、不人気カードでは、スタンドに閑古鳥が鳴いていた。私は長いスポーツ記者生活で、一年間だけ、プロ野球の「番記者」だったことがある。それが一九八七年のロッテ番だった。
本書は、南海ホークス、阪急ブレーブスが、それぞれ、ダイエー、オリックスへと譲渡された一九八八年を中心に描かれている。だが、私が担当した八七年、ロッテ球団も、風雲急を告げる事態にあったことを、本書を読んで、初めて詳しく知った。壊れたイスの一件を笑って済ませるような状況ではなかったのだ。本書にある「狭い」「汚い」「人が来ない」川崎球場からの撤退、福岡への移転、ダイエーへの身売りなどが、水面下で進行していた事実が克明に解き明かされている。
結局、ダイエー、オリックスの新球団誕生となったが、一般に知られることのなかった、この間の「丁々発止」が、新事実とともに描かれ、真に迫ってくる。
球団の変遷は、さまざまな偶然も重なったというが、それは、著者の言う「歴史の必然」だったのだろう。とにもかくにも、この八八年を発端に、パ・リーグは大きく変貌を遂げた。ロッテ、西武、日本ハムが関東に、阪急、南海、近鉄が関西にと二極化していたパ球団は、今や、北海道、宮城、埼玉、千葉、大阪、福岡に本拠地を構えるに至っている。著者の言う「必然の結果」なのだろうか。
加えて、八八年パ優勝を決める川崎球場の「一〇・一九伝説のロッテVS近鉄」は、これまた新事実を盛り込み、映像のようによみがえる。著者の山室さんは、読売の社会部記者として敏腕を振るい、読売巨人軍の球団代表を務めた人である。三十年以上を経た「昭和最晩年の球史」に切り込むため、百人近い人を取材し、多くの資料に当たられた労力には驚嘆するしかない。
(新潮社・1674円)
1941年生まれ。元新聞記者。野球史家。著書『野球と戦争』など。
◆もう1冊
野村克也著『私のプロ野球80年史』(小学館)