『やりたいことなんて、なくていい。』
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やりたいことが見つからない?あなたのキャリアは「応援される力」で決まる
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
ご存知のとおり、『やりたいことなんて、なくていい。 将来の不安と焦りがなくなるキャリア講義』(伊藤羊一 著、PHP研究所)の著者は、Yahooの企業内大学である「Yahoo!アカデミア」学長です。
立場上、多くの若いビジネスパーソンと話すなかで耳にするのは、「やりたいことが見つからない」という悩み。しかし、そんなときは次のように答えるのだそうです。
「やりたいことなんて、はじめはなくていい。 それより、足元の仕事、目の前の仕事に、一度全力でぶつかってみよう。 そうすれば、キャリアの悩みはきっと解決するよ」と。 (「はじめに」より)
つまり、「いまやっていることに120%の力を注ぎ、それに無我夢中になって取り組む」という考え方。
足元の仕事、目の前の仕事をまっとうすれば、自分が本当にやりたいこともいつしか見つかり、唯一無二の価値も生まれ、キャリアに関する悩みの大半は解決するということです。
著者自身、社会人になったばかりのころは、やりたいことがなにひとつなかったそう。
その過程においてはメンタル不調にもなったものの、「目の前の仕事を徹底的にやる」ことによって復活できたのだといいます。
とはいえそれは著者だけに可能なことではなく、いまキャリアに悩んでいる多くの読者にも役立つ「再現性」の高いものでもあるようです。
そこで本書では若いビジネスパーソンに向け、人生とキャリア形成において知っておいてほしいと感じていることを述べているわけです。
きょうは「コミュニケーションの法則」についての考え方が明かされている第3章「『なぜか周りに助けられる人』が大切にしていること」のなかから、いくつかの要点を抜き出してみたいと思います。
キャリアは「応戦される力」で決まる
「コミュニケーション能力が、キャリアとどう関係するんだろう?」と疑問を抱く方もいらっしゃるかもしれませんが、キャリアの9割はコミュニケーション能力で決まるのだと著者は言います。
なぜなら「誰に、どの程度応援される人になるか」は、ビジネスパーソンの将来を決定づける大きな要素だから。
そのためには、コミュニケーション能力が不可欠だということです。
著者は本書で、目の前のことを120%やることの大切さを説いています。しかし、そのあとに誰からも仕事を任されなかったとしたら、好循環は途切れてしまいます。
どれだけスキルが磨かれても、それを発揮できる場がなければ、キャリアの可能性は広がらないわけです。
では、どうすれば「応援される人間」になれるのでしょう? 著者はこの問いに対し、「フラットな人間関係を築けるかどうか」で決まると主張しています。
フラットな人間関係とは、上下に関係なく、誰とでも対等に接すること。もっといえば、相手のありのままを受け入れるということ。(104ページより)
あきらめなければ、人は味方になってくれる
最初はがむしゃらに行動して失敗したとしても、あきらめずにそれを振り返り、何度もチャレンジすることが大切。
そうすれば、周囲の誰かが助けてくれるものだと著者は主張しています。
そもそも仕事というものは、関わる人数が増えれば増えるほど難しくなるもの。したがって、そんなときには行動してみるべき。
その結果、うまくいかない状況になったとしても、そこでしっかりと振り返り、もう一度チャレンジすればいいということです。
逆に、うまくいっていないにもかかわらず、「周囲がおかしい」「まわりが全然合わせてくれない」というような気持ちでいるだけだと、「あいつは独りよがりだ」と誰にも相手にされなくなってしまうかもしれません。
そうではなく、行動した上で、うまくいかなければ、そこで振り返ってみて、 「こう変えたらいいのか?」 「こうしたらどうだろう」 と状況に合わせた「チューニング」をする。その上でまた行動にチャレンジする。
その努力を、必ず誰かが見ています。 その繰り返しに、必ず感の良い誰かが気づきます。 (120ページより)
だからこそ、「成功するまでやり切る」という姿勢は、自らの仕事においてだけではなく、誰かの協力を得るうえでも大切な姿勢だということです。(119ページより)
ポジションがなくても「圧倒的大仕事」を成し遂げる方法
若いビジネスパーソンのなかには、「ポジションがないから、大きな仕事ができない」という悩みを抱えている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ポジションや権限がなかったら大きな仕事はできないというものではないと著者は言います。
ポジションがなければ、ポジションを持っている人を動かせばいいのです。 自分が権限や決裁権を持っていないなら、それを持っている課長とか部長を動かす。
そのために、まずは自分ができることを120%やるのが大前提です。(141ページより)
やるべきことをやったうえで、自分にできること以上のことをするときには「人的ネットワーク」の力が役立つというのです。
ネットワークを通じていつでも人の力を借りられるということは、自分の力以上の仕事ができる可能性が広がるということ。
たとば著者にも、きたオファーはなんでも引き受け、「わらしべ長者」的にさまざまな仕事をやり切り、スキルを蓄積して行った経験があるそうです。
それが結果的に、ネットワークの構築につながっていったわけです。
そのような道を歩んできたからこそ、「わらしべネットワーク」とも呼べるこうしたやり方が重要であると実感しているのだといいます。(140ページより)
著者のなかには、30年におよぶ社会人人生を送るなかで得たひとつの確信があるのだそうです。それは、「人は変われる」ということ。
著者自身がそうであり、“決断”したことで人生が大きく変わった人の姿も数多く見てきたからこそ、そう断言できるというのです。
ただし、その変化が偶然に起こるものではないのも事実。目の前の仕事を大切にし、全力を注ぎ続ければ、ある時点で「突き抜けられる」わけです。
いわば、ある意味において、その変化は必然だということになるのでしょう。
「だから、人は変われます」ということばには、強く信じる価値がありそうです。
Photo: 印南敦史
Source: PHP研究所