『暗黒残酷監獄』
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癖と灰汁の強い本格ミステリー。期待の新人
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
清家(せいけ)家は両親と兄と姉、そして末っ子の僕、高校生の椿太郎(ちゅんたろう)の五人家族。父の胤也(かずや)が作った音楽の莫大な印税で暮らす。幸せな家族であったはずだ。
だが兄の終典(しゅうすけ)は数年前に自殺し、今度は姉の御鍬(みくわ)が死んだ。それも遺体は、十字架に磔(はりつけ)にされており、財布の中にメモを残していた。「この家には悪魔がいる」。数年前、おばからDNA検査キットが送られてきた。試してみると、兄と自分は父の子ではなく、姉だけが父と母、夕綺(ゆうき)の子であった。しかし母の不貞は家族の中で不問にされ、絆はさらに固くなったはずであった。
ではなぜ姉は死んだのか。僕は家族の身辺調査を始めた。一人で行うつもりだったのになぜか女の子が絡んでくる。それを振りほどくわけでもなく、当てにするわけでもないが、状況に応じて一緒に行動する。時には寝るし、時には意見交換をする。
少しずつほどけてくるそれぞれの過去の秘密。それは僕の生まれるずっと前からの因縁であり、母の復讐、父の嫉妬が混ざり合い、どす黒い「何か」が存在していた。
謎が解決しても僕は淡々と暮らすつもりだ。人の思惑など、これからの自分の人生と何も関係ない。誰とも何も関わるつもりはない。そのはずだった。
第23回日本ミステリー文学大賞新人賞の最終選考会は大荒れに荒れたという。四人の選考委員の半分は最高点、半分は最低点。意見はまっ二つだった。癖の強い文章と共感できない主人公。登場人物のだれにも感情移入できず、テーマも結末も暗い。でも私の好みだ。みんながハッピーエンドになることなんてあるわけないんだ。だったら思い切り灰汁(あく)の強い小説のほうがいい。この先楽しみな新人である。