『カワセミ都市トーキョー』
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<書評>『カワセミ都市トーキョー 「幻の鳥」はなぜ高級住宅街で暮らすのか』柳瀬博一 著
[レビュアー] 永江朗(書評家)
◆自然と共存のためのヒント
清流の宝石とも呼ばれるカワセミ。公害など環境の悪化により、東京からは姿を消したと思われていた。それが帰ってきた。しかも都心で。コロナ禍の中の2021年5月、著者は都内の川でメスのカワセミと遭遇する。そこから著者の観察と考察が始まる。
カワセミが戻ってきたのは環境が改善されたからだが、カワセミの適応ぶりにも驚く。たとえば巣作り。コンクリートで固められた都心の川で、水抜き穴をうまく使って子育てをしている。川に投棄された自転車は魚たちの住処(すみか)となり、カワセミにとっては恰好(かっこう)の漁場だ。
著者はカワセミが暮らす場所には共通点があることに気づく。それは都内でも屈指の高級住宅地であること。小さな流域を持つ小さな川が流れていること。そして、江戸時代には大名屋敷などがあり、いまも公園や学校敷地などとして自然が保たれていること。
カワセミたちが暮らす街は恵まれた場所にある。ここには、人間が自然と共存していくヒントがたくさんある。
(平凡社新書・1210円)
1964年生まれ。東京工業大教授。著書『国道16号線』など。
◆もう一冊
『都会の鳥の生態学』唐沢孝一著(中公新書)