『かたちには理由がある』
書籍情報:openBD
<書評>『かたちには理由がある』秋田道夫 著
[レビュアー] 永江朗(書評家)
◆かっこいいだけじゃない
プロダクトデザイナーの打ち明け話。歩行者用信号機や交通系ICカードのチャージ機など、著者のデザインだとは知らずに使っているものは多い。口絵やネット検索した画像を見ると、どれもすっきりとシンプルでかっこいい。
でも、デザインを決めるのはかっこだけじゃないのだと著者はいう。たとえば六本木ヒルズのセキュリティーゲート。支柱が円筒形なのは、遅刻しそうで急いでいる人が膝や向こう脛(ずね)を打っても痛くないようにという配慮から。もちろん痛くないかたちはいろいろありえる。円筒形を選んだのは正円や正方形を好む著者の感覚による。
それだけでなく、正円や正方形でデザインされたものには、輸送の効率やコスト面でも合理性がある。使う人、作る人、運ぶ人、売る人、さまざまな人の好みや事情を酌んで「素敵(すてき)な妥協」をするのがプロダクトデザインなのだという。
ワインを熟成させるマドラーやドイツの大きな賞をとったルーペなど名デザインの誕生秘話と哲学が詰まっている。
(ハヤカワ新書・990円)
プロダクトデザイナー。ソニーなどを経て1988年よりフリー。
◆もう一冊
『フォークの歯はなぜ四本になったか』H・ペトロスキー著、忠平美幸訳(平凡社ライブラリー)