<書評>『だめ連の資本主義よりたのしく生きる』神長恒一・ペペ長谷川 著
[レビュアー] 上野千鶴子
◆ゆるく自由に30年の記録
今から30年前、発足したばかりのだめ連と接触したことがあります。
その時の会話。
「だめ連は社会を変えますか?」
「だめでしょう。だめ連ですから」
で、爆笑。このゆるさ、この脱力感がだめ連でした。
それから30年。だめ連は生き延びていました! 神長恒一さんとペペ長谷川さんの共著である本書は、その記録です。30年経(た)てば当然ふたりとも30歳年をとっています。還暦に近いおふたりのうち、ペペさんは昨年2月がんで亡くなったことを知りました。ですからこの本はペペさんへの追悼でもあります。
30年、就職せず、結婚せず、フリーターとバイトで面白おかしく暮らし、思いつきで次から次へとイベントを企画し、バンドもやり、踊り狂い、何より人に会い続け、朝まで吞(の)んでしゃべくって、脱原発のデモにも行き…多くの人が定年になったら自由にふるまいたいなあ、と思うような暮らしを先取りしてしまったおふたり。なぜ待たなきゃいけないの?会社の奴隷になるより、たったいま自由を謳歌(おうか)すればよいのに、というメッセージ。記録といってもペペさんと神長さんが「グッヒヒヒ」「ヒャヒャヒャ」「クックック」と合いの手を入れながらのまったりトーク。そのなかに30年が詰まっています。「誰ひとりとりのこさない」居場所の運営がどんなにむずかしいか、の苦労話は実感にあふれています。
だめ連は再生産しないのか?と思っていたら、加納穂子(ほこ)さんの「沈没家族」に参加していたこともわかりました。そうだ、他人の子どもをみんなで育てればいいんだ!
ゲスト参加した雨宮処凛(あまみやかりん)さんが30年間「寝そべってたらいきなり時代が追いついてきた!」と表現しているように、21世紀の今日、にわかにアナーキズム・ブーム。この閉塞(へいそく)した時代に、思想というより自由な生き方に憧れが集まったのでしょう。オレたち、ここにいたよ、という貴重な記録。今だから、この本が求められています。
(現代書館・2860円)
2人とも1967年生まれ。早稲田大の同窓生で92年「だめ連」結成。
◆もう一冊
『布団の中から蜂起せよ アナーカ・フェミニズムのための断章』高島鈴(りん)著(人文書院)