『居酒屋の戦後史』
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居酒屋の戦後史 [著]橋本健二
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
最近、観光地やレジャー施設などで、昭和の町並みを再現するのが流行中である。その町並みに、駄菓子屋と居酒屋は欠かせない存在だ。どちらも、当時の子どもや大人の社交場として賑わったのだろう。
その雰囲気を知ってみたくなり本書を手にとると、日本人が飲酒に傾けてきたすさまじい情熱に圧倒された。食べるものがなくても酒は飲んだヤミ市の時代から、飲んでいるウイスキーの銘柄がサラリーマンの格を表した時代、安くてうまいチェーン居酒屋の台頭、「酎ハイ」の流行などなど、本書は戦後の酒事情を綿密な取材でたどる。飲酒文化は戦後史の重要な側面であると気づいた。
戦後、肉や小麦粉などが「統制品」であり自由に売れなかったため、規制がない豚の内臓を串にさして焼き、売るようになった。豚だと知っていても、客はそれを「やきとり」と呼んだ。だから今でも、「焼き鳥」のなかには豚の内臓を焼いたものも含まれるのだという。焼き鳥を食べる客は、もちろん酒を飲みたがる。そこで、ヤミで仕入れたカストリ焼酎などを提供するようになる。こうして「焼き鳥をつまみに酒を飲む」文化が生まれ、「駅前やきとり屋」というビジネスモデルが繁栄した。
こうした庶民文化は、史料も限られ、語り手も多くない。でも本書は、この手の調査研究が日本人にとって大切な記録であることを示している。