伊坂幸太郎が描く「罪を犯した少年」たちの物語

レビュー

3
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サブマリン

『サブマリン』

著者
伊坂 幸太郎 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062199537
発売日
2016/03/30
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

伊坂幸太郎が描く「罪を犯した少年」たちの物語

[レビュアー] 杉江松恋(書評家)

 悲しい報せや残酷な事実を、どうしても口にしなければならないときがある。相手の目を見て言うのは憚られるから脇見をしつつ、ぽそっと言う。葉っぱからこぼれ落ちる露のようにひっそりと。でもその水滴は、落下しながらしっかりと輝き続ける。そうした言葉の玉を必ず見つけられるのが、伊坂幸太郎の小説だ。

 新作『サブマリン』は、伊坂が二〇〇四年に発表した『チルドレン』の続篇であり、同作に登場した家庭裁判所調査官・陣内と武藤の二人が主役を務める。陣内は、言いにくかろうがなんだろうが思ったことはすぐさま口にする強烈な個性の持ち主だ。後輩の武藤は、その言動を迷惑に感じつつも彼に魅了されている。

 無免許運転で人を轢いて死なせた、棚岡佑真という少年がいる。彼の更生についての方針を示すのは、家裁職員としての武藤の仕事である。犯した罪の重さと少年の人生が不幸なものであったこととは別の問題で、単純に天秤にかけられるわけがない。このことについて検討を重ねているうちに武藤の思考からは多くの玉が転がり出してくるのだ。繊細で、でも率直で飾らない言葉の数々が。

 伊坂はさらに、小山田俊という少年を登場させる。ネットワークを自在に操る天才なのだが、やはり違法行為に足を踏み入れて家裁の試験観察を受ける身の上になった。その彼が武藤に告げた情報が、この物語を複雑化させていくのである。

 連作形式をとり、周到な迂回路を通りながら中核へと迫る小説だった『チルドレン』とは異なり、本作は一般的な長篇の形式をとっている。しかし結末への道のりは決して真っすぐではなく、うっかりすると見落としてしまいそうなほどに小さな曲がり角があちこちにあって、進む者を幻惑してくる。しかしその中央をかまわず突破してくるのが陣内という猪突猛進の男なのだ。読者は彼が通り過ぎた跡を見ながら、ほう、とためいきをつくことになる。

新潮社 週刊新潮
2016年4月21日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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