【聞きたい。】「理想のプロレス」追い求めた男描く… 『格闘者-前田日明の時代-2』塩澤幸登さん

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【聞きたい。】「理想のプロレス」追い求めた男描く… 『格闘者-前田日明の時代-2』塩澤幸登さん

[文] 高橋天地

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塩澤幸登さん

 派手なマイクパフォーマンスなどショー的な要素が重視されるプロレスのフィールドに、キックボクシングやサンボといった他の格闘技の要素を持ち込み真剣勝負を追求、現在のいわゆる総合格闘技ジャンルへと発展させた中心人物といえば、すぐに前田日明(あきら)(57)の名が挙がるだろう。

 そんな彼の人生を全3冊のノンフィクションにまとめるべく戦いを挑んでいるのが作家、塩澤幸登さん(68)だ。2冊目では、20代だった前田が、業界大手「新日本プロレス」のスターの座を捨て、昭和59年に旗揚げされた新団体「UWF」のエースとして理想のプロレスのあり方を模索し始めた時期に焦点を当てた。

 この時点で前田が考えた「理想」とは何か。事前に勝敗を決めない真剣勝負とこの本は端的に記す。「前田は試合前に勝敗を決めておくプロレスがスポーツといえるのかとずっと疑問を抱いていました。だから約束事で勝敗を決める部分をラジカルに変えていこうとした。それは業界にとってはタブーな発想」

 その後、UWFは選手間の考えの相違など複雑な事情が絡み合い、崩壊へと向かう。この本を読んだ前田は、塩澤さんにこんな感想を寄せた。「本当はUWF時代の話は人に裏切られた記憶ばかりで一番思い出したくないこと。でも(本書を読み)『あの時、俺が考えていたことはやはり正しかった』と思えたし、何だか救われました」

「僕の関心は『昭和』という時代を築き上げてきた人物たちがどんな理念や理想を胸に抱き懸命に生きたのかという点につきる」と塩澤さん。前田に注目したのは「常に新しいことに挑み改革しようとする気概に惚(ほ)れ込んだから」という。

 平成も四半世紀を経た今、忍び寄る還暦の足音を感じつつ、なおとどまることを知らない格闘者、前田のさらなる進化をこの目で見届けたい-。塩澤さんは願っている。(河出書房新社・3000円+税)(高橋天地)

【プロフィル】塩澤幸登

 しおざわ・ゆきと 昭和22年、長野県生まれ。早稲田大文学部卒業。マガジンハウスで「ガリバー」など雑誌編集を手がけた。退職後は作家に。著書に「平凡パンチの時代」など。

産経新聞
2016年6月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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