『鉄道ミステリーの系譜』
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鉄道ミステリーの系譜 原口隆行 著
[レビュアー] 郷原宏(文芸評論家)
◆謎解きの旅は深まる
熱狂的な鉄道ファンのことを「鉄ちゃん」という。「鉄ちゃん」には種類があって、列車に乗るのが好きな人を「乗り鉄」、写真を撮る人を「撮り鉄」、文献を集める人を「読み鉄」というらしい。とすれば、本書はさしずめ「読み鉄」のためのミステリー案内ということになる。
すでに『時刻表でたどる鉄道史』『文学の中の鉄道』などの著書をもつ原口氏は、ここではポー以来の世界ミステリー史をひもときながら、鉄道を舞台または主題とするミステリーの生成発展の歴史を作品に即してたどってみせる。
第一部「探偵小説の萌芽(ほうが)と日本における発展」の各章は、新幹線並みのスピード記述になっていて、読者に沿線の風景を楽しむゆとりを与えないが、第二部「世相や社会を映す鉄道ミステリー」は、随所に「書き鉄」ならではの知見や逸話がちりばめられていて、うるさ型の多いミステリーファンにも十分に楽しめる内容になっている。
特に「草創期のイギリスの鉄道ミステリー」の章は圧巻で、鉄道ミステリーは鉄道の先進国だったイギリスで鉄道技師たちによって書き始められたのだという事情がよくわかる。欲をいえば、作品を年代順だけではなく、主題またはトリック別に分けて紹介してほしかった。ともあれ、この一冊を携行すれば、鉄道の旅はさらに楽しいものになるだろう。
(交通新聞社新書・864円)
<はらぐち・たかゆき> 1938年生まれ。文筆家。著書『ドラマチック鉄道史』など。
◆もう1冊
川本三郎著『小説を、映画を、鉄道が走る』(集英社文庫)。小説・映画・漫画など、物語と鉄道を語るエッセー集。