名作「坊っちゃん」パロディ 『贋作「坊っちゃん」殺人事件』など3冊

レビュー

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  • 贋作『坊っちゃん』殺人事件
  • 鹿男あをによし
  • 坊っちゃん忍者幕末見聞録

書籍情報:版元ドットコム

しょっぱさがたまらない 名作『坊っちゃん』パロディ

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

〈親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている〉―実際に『坊っちゃん』を読んだことがなくても、冒頭の一文だけでそれとわかるのが「名作」と呼ばれる所以。当然、パロディやパスティーシュ、オマージュの対象になりやすい。

 わかりやすいところでいえば柳広司の『贋作『坊っちゃん』殺人事件』(角川文庫)。直球のタイトルが伝えるとおり、これはもうバリバリ『坊っちゃん』である。「坊っちゃん」こと〈おれ〉やお馴染みのキャラの後日談をベースに、語彙から台詞回しに至るまで忠実に「『坊っちゃん』文体」をなぞりながら、予想外のミステリを進行させていく。

 万城目学の『鹿男あをによし』(幻冬舎文庫)も同じ系譜。とぼけた味わいのファンタジー、といった印象が強い作品かもしれないが、研究室内で浮いてしまった〈おれ〉が奈良の女子高という、成人男性には最も扱いの難しい集団の中にいきなり放り込まれる―その困惑こそが、巻き込まれ型ヒーローの原型たる「坊っちゃん」の真髄なのだ。

 ちなみに前述の「『坊っちゃん』文体」なる呼称を発明(?)したのは万城目学そのひと。彼が解説を担当しているのが今回の本丸・奥泉光の『坊っちゃん忍者幕末見聞録』。あの「坊っちゃん」が忍者の末裔として現れ、陰謀渦巻く幕末の京都で大活劇を繰り広げる!―書名や「痛快無比の青春歴史ファンタジー」といった帯の惹句からそんな大袈裟な内容を想像したかもしれないが、ごめんなさい、全然違う。〈おれ〉が使う忍法といえば、ただ「隠れる」だの「溝を這う」だの、秘術のイメージを覆す地味な代物。出てくるのは絶妙にセコい男や貧相な男ばかり。でも、そのしょっぱさがたまらなく心地良い。ページを繰る手がとまらない。

 そもそも『坊っちゃん』がスカッと爽快なエンタメ作品だと思っているのなら大間違い。大の漱石ファン・奥泉の言葉を借りれば、「中二病」で「コミュ障」(!)の男が世間の複雑さに敗れる物語だ。でも、だからこそ「青春」ってやつは愛おしいのだろう。

新潮社 週刊新潮
2017年4月27日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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