ポピュリズム 薬師院仁志 著

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ポピュリズム

『ポピュリズム』

著者
薬師院 仁志 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784106107092
発売日
2017/03/17
価格
842円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ポピュリズム 薬師院仁志 著

[レビュアー] 田仲康博(国際基督教大教授)

◆対立煽り民意を掌握

 トランプ氏が大統領選に勝利した翌日、米国中西部の中学校で、昼休みに白人の生徒数人が「壁を作れ!」と叫ぶ小さな事件が起きた。著者の目にはそれが「ポピュリズム政治が生み出す暗い世の中」を象徴するものとして映った。「壁」が社会の至る所に引かれる<分断線>の象徴だからだ。トランプ氏はエリート層を「敵」に仕立て上げることで社会に分断線を引き、自らは「敵の敵」、つまり大衆の側に立っていると主張した。

 社会を「エリート」対「人民」として図式化し、人びとの間にある不安や憎しみや嫉妬を水路づけることがポピュリストの常套(じょうとう)手段だ。彼らは、民意を汲(く)むのではなく、「世論を都合よく操作し、民意の方を自分たちの主張に一致させる」戦術をとる。

 現代型ポピュリストの草分けであるヒトラーが「選挙や投票という間接民主主義的な手続きを通じて独裁者に選任された」ことに著者は注意を促す。その時代、人びとは「途方にくれた不安な個人」と化し、いつしか思考停止に陥っていた。デマと民衆煽動(せんどう)に長(た)けた稀代(きたい)のポピュリストが登場する舞台はできていた。

 それは遠い国の、遠い過去の話ではない。「空気」を読むことが美徳とされるこの国においては、「多数決万能の全体主義は現在の脅威だ」と説く著者の言葉が重く響く。
 (新潮新書・842円)

 <やくしいん・ひとし> 社会学者。著書『「文明の衝突」はなぜ起きたのか』など。

◆もう1冊 

 水島治郎著『ポピュリズムとは何か』(中公新書)。南北アメリカや欧州各国での状況を整理し、その本質に迫る。

中日新聞 東京新聞
2017年5月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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