明文堂書店石川松任店「血と犯罪に彩られた世界で、壮絶で純粋な《想い》が暴走する」【書店員レビュー】
レビュー
『暗手』
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明文堂書店石川松任店「血と犯罪に彩られた世界で、壮絶で純粋な《想い》が暴走する」【書店員レビュー】
[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)
《死ねばいいじゃないか――時々、そう思う。おれには夢もない。希望もない。生きる意味も失った。//それなのになぜ生きているのか。他人の血を啜りながら生き長らえているのはなぜか。//いつも答えを探している。//おまえがおまえだからだ――いつも頭に浮かぶのはそんな答えだった。》
性格的にシリーズ作品や前作がある作品は順番に辿っていきたい人間なのですが、実は『夜光虫』の続編ということを知らずに読み始めてしまい、後でそのことを知りました。ただ前作を読んでいない状態で読んでもとても愉しめました(読んでいないことをわざわざ語るのは申し訳なく、言い訳っぽく聞こえるかもしれませんが……)。力強い物語に心を掴まれました。
暴力は嫌いだし、犯罪なんて憎らしいだけだ。できるなら近くに置いておきたくはない。見なくて済むなら見たくない。そして、まるで臭いものに蓋をするかのように見ないふりをする。暴力や狂気が存在する事実から逃げる。初めて著者の作品(おそらく多くの人と同じように、あの作品です)に触れた時、そんな私の弱い心を糾弾するかのように物語が胸に迫ってきたのを覚えている。そして同時に引き込まれていた。決して美化されない暴力と狂気に彩られた世界の隙間から聞こえる、事実から目を背けようとしない声に、私のような弱い人間は強く惹かれるのだ。
イタリアの黒社会とサッカーの八百長をめぐる本書においても研ぎ澄まされた鋭い言葉が自身の心の弱い部分を抉り続ける。繰り返される自問自答が自身の負の感情を揺さぶり続ける。始まりはどこか静けさが漂うが、徐々に感情が激していく。やがて血と犯罪に彩られた世界で、壮絶で純粋な《想い》が暴走する。